熱愛マリーゴールド

人間

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起首

息を呑む

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桜の下に佇む女は、
仮面マスクをつけていなかった。

生まれた時から誰もがつけるであろう 
いや つけることを必須とするこの世界で
彼女は平然とそれをしていなかった。
そんな彼女の異端な美しさに
惹かれているうちに
彼女が桜の木の下から離れようとしていた。
私は、
話しかけなければとふと思い、気がつけば

「お名前、なんていうんですか。」

言葉を発していた。

初対面のただ通り道に居ただけの人に
名前を聞くことなんて初めてだ。

けどそうでもしないともう二度と彼女の事を
見ることも出来ないという可能性が少しでもあったから、それほどにまで私は焦っていたのだ。
だってこんな感情は、初めてだったから。

「…名前?」

彼女は困惑していた。それはそうだ
見知らぬ人からいきなり名前を聞かれたら
誰だって驚く。
でも、彼女の驚きは普通とは違った。

「#宵月 幸__よいづき さち_#
宵の月で幸せの幸。いい名前でしょ。」

彼女はそっと微笑む。
その姿は無邪気で子供のようだった。

「君の名前は」
と彼女が問いかける

「彩世 那紬  
彩る世界で那覇の那に糸へんの方のつむぐで
あやせ なつ。  …です」

「とてもいい名前だね」

純粋に彼女に褒められ、照れていると

「那紬って呼んでも?
私のことは好きに呼んで」

「いい!好きに…か。幸って呼んでもいいですか。」
問いかけに応じ、さらに話を続ける。

「幸でいいよ。 敬語はこれから禁止だよ」

敬語禁止。 簡単なことなのに、幸の前で
それを禁止されると少し困る。 
今でさえ緊迫した心で押しつぶされそうなのに

「わかったよ。」
と応えるが実際は気になることばかりだ。

「ねぇ那紬 。私が仮面マスク
をつけてないのになんで話しかけてくれたの」

幸が私に問いかける。
綺麗だったからなんて言える訳がない。
でも…伝えるしかない 

「 桜の樹の下に佇む幸が とても綺麗で、
仮面マスクを着けてない人なんて
初めて見たから興味がちょっと湧いちゃって
それで。あの、えっと仲良くしたいなって
思ったの」

我ながら不器用でまとまらない答えだと思う。
でも、どうしても伝えたかった。

「まさか、那紬 仮面なしマスク無し
を知らないの?」

と聞いてくる。なんだそれはと思っていると
表情で察したのか幸が

「マスク無し。通称面なしともいう私が説明することでは無いと思うけど、
那紬の命にも関わる話だから これを聞いて
私から離れるにしても怒らないからよく
聞いてね」
と話始めた。
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