ケサランパサラン

田古みゆう

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ケサランパサラン p.1

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 物語が一区切りつき、ふうっと体から力を抜く。布団の中で丸くなって本を読んでいたせいで、首や肩、それから体を支えていた腕が痛い。

 固まってしまった体を伸ばしたくて、恐る恐る布団から顔を覗かせる。耳栓代わりのイヤホンをしているとはいえ、思いのほか静かになっていることに安堵して、私は布団の中からのっそりと這いでた。

 思いっきり体を伸ばしてから、布団に手を差し入れ、置き去りにしたままのスマホを引き出した。時間的には、既に朝を迎えようとしている。しかし、それにしてはカーテン越しに薄日が射していない。まだ雨が降っているのだろうか。

 伝家の宝刀の威力に感謝しつつ、疲れ切った目をシパシパとさせる。窮屈な読書タイムのおかげで、全く疲れが取れていない。むしろ、目を酷使したせいで、目も頭も疲れている。雨に備えて早く寝たのに、せっかくの睡眠時間が台無しになってしまった。

 やっぱり雨は苦手だ。

 雨に悪態をつきながら、本を本棚へと戻すと、もう一度伸びをしてから首と肩を回す。

 できることならもうひと眠りしたいが、可能だろうか。

 イヤホンを外し無造作に机の上に置く。随分と静かになった窓の外が気になり、カーテンの隙間にそっと手を差し込んだ。窓の外を覗いてみる。無数の水滴で、窓の向こうが少し歪んで見えた。

 それでも、雨が降っていないことは分かった。しかし、残念ながら雨上がりの晴天ということでもない。明け方だからまだほの暗いのはそうなのだが、それにしても、なんだか奇妙な外の光に、私は思わず窓を開ける。

 ほの暗いのに何故だか周囲に光を感じながらベランダへと出ると、雨の名残がそこかしこにある。ベランダ用のサンダルも、しっかりと濡れそぼっていたが、素足でベランダに出るのが嫌で、仕方なくそれに足を入れた。

 出しっぱなしにしていた鉢植えが、雨の勢いに負けたのか横倒しになっていた。幸い、中の土はあまり流れ出ていないようだ。鉢植えを起こし、少し出てしまった土を鉢の中に戻すため、両手で掬う。雨でぐっちょりと濡れた土は、手にこびり付いて気持ちが悪い。鉢の縁に泥を擦り付け、不快感に眉を顰めていると、微かな音が聞こえたような気がした。

 小鳥のさえずりか。

 いや、違う。

 近所の犬のキュンキュンという鳴き声か。

 いいや、違う。

 少し向こうの通りを走る、車の音か。

 全然、違う。

 目を閉じて、その音に意識を集中させる。

 ……ラン……パサラン……ケサラン……パサラン……
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