ケサランパサラン

 ポツ……
 雨だ。
 頬に落ちてきた一粒の水滴に誘われて、私は空を見上げた。
 傘はない。本格的に降り出す前に自宅へ戻ろう。
 私の歩みを追うように、雨が私を追いかけてくる。雨音に急かされるかのように、私の靴音も、次第に高く早くなる。

 ポツ、ポツ、ポツ……
 自宅まであと数メートルというところで、地面にできるシミの数が増えてきた。
 あと少し。なんとか間に合って。
 私は、堪らず駆け出した。

 このくらいなら、まだ大丈夫。
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