お祈りメール

田古みゆう

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お祈りメール(4)

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 そんな状況にも関わらず、俺なんかを受け入れていいものだろうか。そもそも、起業とはそんな簡単に上手くいくものなのか。

 そんなことを考えていたら、大地は俺の肩をポンッと叩いた。そして、自信に満ちた声で言い放つ。

「大丈夫。絶対に成功する。だから、俺について来い」

 その言葉を聞いた途端、胸の奥から熱いものが込み上げてきた。こんな風に言い切れるなんて凄いなと思う。そして、こいつにならついて行ってもいいかもしれないと思った。

 気付いた時には自然と答えが出ていた。俺は大地の目を見てはっきりと告げる。

「よろしくお願いします! 」

 こうして、念願の再就職先が決まった。

 大地は嬉しそうに微笑むと、力強く俺の手を握り締めた。それからふと思い出したかのように言う。

「そういえば、結局、何社からお祈りメールが来たんだ? 」

 その質問を聞いて、また落ち込む。いくら、友人とはいえ、本当はあまり知られたくないのだが……。でも、正直に打ち明けることにした。大地はこれから一緒に仕事をしていく相手なのだ。誠実でいたかった。

 俺はスマホを取り出して、通知欄を見せる。そこには、五十社以上の企業からの不採用メールが表示されていた。

 大地は一瞬驚いた顔をした後で、ニヤリと笑った。……ような気がしたが、すぐに優しい表情になった。

「良かったな」
「えっ?」

 予想外の言葉に思わず聞き返す。大地は真面目な顔で続けた。

「だってこれが最後のお祈りメールだろ」

 その言葉の意味を理解すると同時に、俺の心は軽くなった。確かにそうだ。もうこれ以上、お祈りメールを受けることはない。もうこれで終わりだ。

 俺は大地に向かって大きく笑みを浮かべた。そして俺は、携帯のアドレスに残っていた大地の連絡先を新しく登録し直した。

 それから俺たちは店を変え、本格的に仕事の話をした。まず、俺は大地が設立するベンチャー企業の社員として入社することになる。大地は社長で、俺は平社員という形だ。ちなみに、社名は株式会社アグリテックというらしい。

 仕事は、主に営業と事務。営業は基本的に飛び込みで、農家に商品を卸してもらえるよう交渉すること。事務の方は、顧客データの管理や納品書の発行、売上管理などが主な業務だ。仕事内容自体はシンプルだが、問題は仕事の量だ。会社が軌道に乗るまでは、とにかく忙しそうだった。

 大地は、経理や人事といったバックオフィスの仕事、Webページの作成、システムの改良を行うらしい。
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