クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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永遠の誓い(18)

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 私の隣には、シロ先輩がいる。それだけで、こんなにも世界が明るく見える。

 シロ先輩は、私のことをじっと見つめている。その目はどこか嬉しそうだ。それから、何かを思いついたかのように、悪戯っぽい顔になる。

 どうしたのかなと思っていると、不意に抱き寄せられた。シロ先輩の腕の中に閉じ込められて、身動きが取れなくなる。

 シロ先輩は、私の首筋に顔を埋めて、匂いを嗅ぐようにして鼻を鳴らした。その様子がなんだかいじらしくて可愛らしい。思わず頭をよしよしすると、シロ先輩は、私の首元でふっと息を吐いた。それが妙に艶っぽくてドキッとする。そのままシロ先輩の熱に流されそうになって、慌ててシロ先輩を引き剥がした。

「そろそろ、行きましょうか」

 そう言って立ち上がる。シロ先輩は、少し名残惜しそうだった。

 私は、シロ先輩の手を引いて、歩き出す。指先から伝わる温もりに心まで満たされていく。お互いの心が繋がっているような感覚があった。

 いつの間にか夕陽が沈んだ海は、夜闇に包まれて真っ暗だ。波の音だけが響いている。砂浜に二人分の足跡を残しながら、私は、隣を歩くシロ先輩の横顔を盗み見る。

 いつもと同じ、少しだけ不機嫌そうな横顔。でも、今は、その中に少しだけ違う表情が見える。繋いだ手からは確かな温もり。

 私たちの関係は変わったけれど、変わらないものもある。その事実が、とても嬉しい。

 私は、悠然と空に浮かぶ月を仰ぎ見た。

 きっとこれからも楽しいことばかりじゃないだろう。喧嘩をしたり、すれ違ったりする時もあるかもしれない。それでも、私は、この人となら乗り越えていけると信じている。

 私のこれからの生活は大きく変わる。けれど、きっと今までのように不安に思う必要はない。なぜなら、これから私の隣には、いつでもこの人がいてくれるのだから。時に導き、時に背中を押してくれる、そんな温かい手を私はいつでも握っていられるのだから。私は、あの月のように、悠然と構えていればいいのだ。

 そう思ったら、自然と笑みが溢れた。私は、隣にいるシロ先輩を見上げて言う。

「これからもよろしくお願いしますね、シロ先輩」

 シロ先輩は、私の言葉を聞いて一瞬呆けたような顔をしたが、すぐに、ニヤリと笑みを浮かべた。

「おう!」

 その短い返事が、あまりにもいつも通り過ぎて、私はまた笑ってしまう。

「ところで、次はどんな仕事をする予定なんですか? もしかして私、無職の人と結婚することになります?」
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