クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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永遠の誓い(15)

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 私は、ごくりと唾を飲み込んだ。まさかこんな展開になるなんて、今朝の私は思ってもいなかった。挙式とはいえ、デモンストレーション。仕事そのもの。完全に仕事モードでいたのに。だが、今のこの状況はどう考えても違う。私の思考回路は、ショート寸前だった。

 シロ先輩は、そんな私に構うことなく、再び言葉を紡ぐ。

「クロ。好きだ」

 耳元で囁かれたシロ先輩の声が頭の中で何度も反響する。身体中の血液が沸騰してしまいそうで、顔から火が出そうだ。ぶっきらぼうで、お世辞にも優しいとは言えない彼だけど、それでも、互いの気持ちを確認し合ったあの日から、幾度かくれた言葉を口にする。

 しかし、今日のシロ先輩はいつもと違っていた。熱っぽい声色で告げられたその言葉には、今までとは違った重みがある気がしてならなかった。シロ先輩は、返事を待っているかのようにじっと私の顔を見つめている。私は、恥ずかしくなって思わず顔を背けてしまう。すると、シロ先輩は、少し寂しそうな声で呟いた。

「……俺じゃダメか?」

 私は、慌ててシロ先輩に向き直る。シロ先輩は、眉尻を下げて困ったような笑みを浮かべていた。その顔は、どこか悲しげで自嘲気味だ。

 違う。

 私は、自分の態度がシロ先輩に誤解を与えたことに気づく。

 シロ先輩のことを嫌なわけがない。むしろ逆だ。大好きだからこそ、この状況が信じられないくらいに嬉しい。でも、突然すぎて心の準備ができていなかった。

 私は、必死に考えを巡らせる。こういう時こそ落ち着かなければ。大きく深呼吸をしてから、口を開く。

 まずは、自分の気持ちを伝えよう。

 私は、シロ先輩の目をしっかり見て、しっかりとした口調で言った。それは、私の本心を精一杯込めた言葉。

「ダメなわけない」

 シロ先輩は、私の言葉を聞くと、驚いた様子を見せた。それから、頬を赤らめながら嬉しそうに笑う。こんなに可愛らしい笑顔を見せてくれるなんて思わなかった。胸の奥がきゅんとなる。

 私は、シロ先輩が愛おしくて堪らなかった。シロ先輩の右手が伸びてきて、私の左手を掴む。そのまま指先を絡めて手を握られる。シロ先輩の手は、温かくて、優しくて、力強い。

 シロ先輩が、私のことを見つめて、ゆっくりと唇を動かす。

「本当にいいのか?」

 シロ先輩の言葉を聞きながら、私は、ゆっくりと首肯した。

 シロ先輩は、私を引き寄せると、ぎゅっと抱き締めてくれた。私もシロ先輩の背中に腕を回して、力いっぱい抱きしめ返す。
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