クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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永遠の誓い(13)

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 それから、真っ直ぐに私を見据えて、再び口を開いた。私は、彼の言葉を一言一句聞き逃さないように、耳を傾ける。

「俺はもともと、この仕事に対してあまり熱意がなかった。いつかは転職するんだろうなと思っていた。それはクロも知っているだろ?」

 私は、コクリとうなずく。シロ先輩が仕事に対してモチベーションを上げられないでいたのは知っている。だが、最近は少し違っていたはずだ。プロジェクトの責任者としての立場を通して、少しずつやる気を取り戻していたように見えていた。それなのに……。

 シロ先輩は、私の思考を読み取ったかのように続ける。

「確かに、最近はやりがいを感じている。だけど、やっぱり、どこかで迷っている自分がいたんだ。このままでいいのか? 本当にやりたいことなのかって。それで、……気づいたんだ。本当は、もう随分前から答えが出ていたことに」

 そこで一旦区切ると、シロ先輩は、少しだけ照れ臭そうに頬を掻いた。

 私は、その続きを固唾を飲んで待つ。シロ先輩は、躊躇うことなくはっきりとした口調で告げた。

「俺は、人の笑顔が見られる仕事をしたい。そのために、自分にできることを精一杯頑張りたい。そう思ったんだ」

 私は、胸の奥から込み上げてくる熱い想いを抑えることができなかった。

 こんなにもしっかりと自分の思いを口にするということは、シロ先輩の中ではもう決まった事なのだ。きっと、どんなに私が引き留めようとしても、シロ先輩の気持ちは変わらない。これから先、私とシロ先輩のコンビで仕事をすることはなくなる。それは、嫌だ。

 涙腺が壊れてしまったみたいにボロボロと大粒の雫が溢れ出した。シロ先輩は、私の身体を引き寄せると、優しく抱き締めてくれた。その温もりに包まれながら、私は思う。

 ああ、私はいつの間にこんなにもシロ先輩への想いでいっぱいになっていたのだろう。

 シロ先輩の背中に腕を回し、ぎゅっとしがみつくようにして泣きじゃくる。シロ先輩は、何も言わずにただ黙って私を抱き締め続けてくれた。

 やがて、嗚咽も止まり、落ち着きを取り戻した私は、そっと顔を上げて、シロ先輩を見た。彼は、穏やかな表情を浮かべたまま、こちらを見つめ返してくれる。私は、その視線を受け止めながら、震えそうになる唇をどうにか動かして、ゆっくりと言葉を発した。

「もう決めたことなんですよね?」
「ああ」

 シロ先輩は、私の瞳を見つめて、はっきりと言った。迷いのない力強い口調だった。
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