クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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永遠の誓い(6)

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 そんな私たちのもとへやって来た三嶋さんは、にっこり笑って言った。

「八木さん、白谷さん。それに、明日花さんも。お疲れ様でした。おかげさまでブライダルフェア大成功です!」

 三嶋さんのその言葉はイベントの終了を意味している。私は肩の荷が下りた気分になった。それは、どうやらシロ先輩も同じだったようで、大きく息を吐いて、ほっと胸を撫で下ろしていた。その仕草が本当に安堵しているようで、私は、思わず笑ってしまう。そんな私を横目に見たシロ先輩は、眉間にシワを寄せて言う。

「クロ、お前、笑ってられる立場じゃないだろ。三嶋さんに言うことがあるんじゃないのか」

 シロ先輩の責任者然とした態度に私はハッとした。そうだ。イベントの成功を祝う前に、まずは模擬挙式の失敗をクライアントに謝らなくては。私は慌てて背筋を伸ばすと、三嶋さんに向けて頭を下げた。

「三嶋さん。すみませんでした。私、挙式のとき、きちんと出来なくて」

 しかし、私が頭を下げると、三嶋さんは、慌てて両手をブンブンと振った。

「良いのよ。明日花さん。気にしないで。私も、あの時はちょっとヒヤッとしたけど、結果的に盛り上がったし。やっぱり、本当の誓いの言葉は、本番まで取っておく方が良いと思うし」

 そう言って、ニッコリ笑う三嶋さんを見て、私はなんだか泣きそうになった。シロ先輩を見ると、彼も三嶋さんの言葉に安堵した表情をしている。

 三嶋さんの言葉に嘘はないだろう。私は、込み上げてくるものを必死に飲み込んで、精一杯の笑顔を作って言った。

「本日は貴重な体験を、ありがとうございました」

 三嶋さんは、うんうんとうなずくと、私にとびきりの笑顔を向けて来た。

「さて、本日のイベントは成功したということで、無事終了となりますが、明日花さんの本番のご予約はいかがいたしますか?」

 三嶋さんのそんな冗談めかした言葉を聞いて、私はギクリとする。チラリとシロ先輩の様子を伺うと、シロ先輩も私の方を見ていた。目が合う。彼は何か言いかけて、結局、口を噤んでしまった。

 三嶋さんは、私たちの反応を面白そうに見ていたが、ふと真剣な顔になった。

「式場スタッフである私がこんな事を言ってはいけないのですけど、未婚女性がウエディングドレスを着ると、“婚期が遅れる”と言われていることをご存知ですか? まぁ、ただのジンクスですが」

 三嶋さんは、悪戯っぽく微笑む。私とシロ先輩は何も言えなかった。三嶋さんはさらに続ける。
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