クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
134 / 155

真実はすぐそばに(13)

しおりを挟む
「お前は、俺がシロヤギだったら嬉しいのか?」

 私は、シロ先輩の瞳を見つめ返す。不安と期待が入り混じったように見えるその視線に、胸の奥がきゅっとなるのを感じた。私は、ゆっくりと答えた。

「もちろんです。シロ先輩がシロヤギさんなら、私たち、子供の頃に既に出会っていたんですよ! すごくないですか? しかも、シロヤギさんは私の背中を押してくれた、大切な人なんです。それがシロ先輩だったら嬉しいに決まってるじゃないですか。昨日、この可能性に気づいてから、私は何も手に付かないくらいドキドキしていました。シロ先輩も、もしかしたらと思ったから、あの神社に来たのでしょ?」

 そこまで一気に話すと、私は大きく深呼吸をした。心臓の鼓動が激しくなっている。シロ先輩は、しばらく黙って考え込むようにしていた。私は、シロ先輩が口を開くのを待つ。シロ先輩は、やがて小さな声で言った。

「……行くまではあの神社の思い出なんてほとんど思い出せなかった。どんな感じのところかも思い出せなかったくらい。俺も子供の頃に神社とかで遊んでいたよなって程度に記憶と言うか、知識として覚えている感じで。昨日も、本当に散歩がてらあの場所に寄っただけだったんだ。だけど、一歩足を踏み入れた瞬間、そうそうこんな所だったって、懐かしさが込み上げて来た」

 シロ先輩が一度言葉を切る。私はじっと彼の目を見た。

「それって、幼い頃の記憶を思い出したってことですよね? じゃあどうして、どうだろうなんて」

 私の言葉に、シロ先輩が苦笑いを浮かべる。

「クロはさ、シロヤギとの思い出をしっかり覚えているみたいに話すけど、それって完璧か? シロヤギとのやりとりを一言一句正確に覚えているのか? 違うだろ?」
「……それはそうですけど」

 シロ先輩は、私の目を覗き込んでくる。私は、その目に吸い込まれそうになる。その目は真剣そのもので、決して話をはぐらかそうとしているようには見えなかった。

「俺が覚えていないのも、それと同じことだ。なんとなくあの神社に遊びに行っていた記憶はあるけど、どんな風に遊んでいたのか、そこまで明確には記憶してないってこと」

 私は、小さくため息をつく。

「……そう、ですか」

 シロ先輩から肯定の言葉が聞きたかったのに、そうならなかったことに落胆している自分がいる。でも、よく考えるとそんな簡単に思い出せたら、最初から悩んでいたりしないはずだ。それに、シロ先輩の話にも筋が通っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...