クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
123 / 155

真実はすぐそばに(2)

しおりを挟む
 目的の駅に着くと、私は足早に降りて改札を出た。駅前にある喫茶店に入り、奥まった席へと座る。コーヒーとサンドイッチを注文し終わると、スマホを取り出してメールを打つ。程なくして相手から返事が来た。もうすぐ着くという短い文章が届くと、私はスマホを鞄にしまった。

 それから数分もしないうちに、約束の人物は現れた。白谷吟は私の姿を見つけると、軽く手を振って近づいてきた。私も小さく頭を下げて応える。

 向かい側の椅子に腰かけると、店員にアイスティーを頼んでから、白谷吟は私に向かって微笑みかけた。相変わらず完璧な人だと思った。この人にはいつでも全てを見通されているような気がして、思わず目を逸らす。私が俯いていると、白谷吟が口を開いた。

「驚いたよ。矢城さんから連絡をもらうなんて」

 その言葉に私はハッとして顔を上げる。そして、慌てて頭を下げた。

「すみません。お休みの日に呼び出してしまって」

 今日は日曜日だ。当然、相手の貴重な時間を割いてもらうのだから、失礼な態度をとってはいけない。そう反省していると、白谷吟は首を横に振る。そして、優しく微笑んだ。

「いいよ別に。特に予定もなくて、暇していたから。それより矢城さんの方こそ良かったの? せっかくの休みなのに」

 そう言って、彼は私の顔を覗き込んだ。私はこくりと肯く。

「はい。実は白谷先輩に伺いたいことがあって」

 私は単刀直入に聞いた。

「シロ先輩って小学生の頃に、白谷先輩のご自宅の隣に越してきたんですよね? それ以前はどこに住んでいたか、聞いたことありますか?」

 白谷吟はその質問を聞くと、一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに納得したように肯く。ちょうど注文した品が運ばれてきた。アイスティーを一口飲んでから、白谷吟は答えてくれた。

「うん。知ってるよ。確か……」

 その答えを聞いて、私の心臓はどきりとした。また期待値が跳ね上がる。

「それで、どうしてそんなことを訊くの? 史郎には直接聞けない感じ?」 

 問われて、私は一瞬躊躇う。でも、意を決して打ち明けることにした。

 もしかするとシロ先輩がシロヤギさんではないかと思っていること。最初はシロ先輩に直接尋ねようと思ったけれど、今日は予定があると断られたこと。

 それを聞いた白谷吟は驚くこともなく、ふぅんと呟いただけだった。もっと驚かれると思っていた。しかし、よく考えてみれば、白谷吟にとってはシロヤギさんの正体など全く関係のないことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃の愛

うみの渚
恋愛
王は王妃フローラを愛していた。 一人息子のアルフォンスが無事王太子となり、これからという時に王は病に倒れた。 王の命が尽きようとしたその時、王妃から驚愕の真実を告げられる。 初めての復讐ものです。 拙い文章ですが、お手に取って頂けると幸いです。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

処理中です...