クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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去り行く背中を追いかける(4)

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 私はシロ先輩の背中にそっと手を回した。どれくらいの間そうしていたのだろう。不意に、耳元でシロ先輩が囁いた。

「クロ、俺、勘違いしてもいいか?」

 その声に、私はゆっくりと瞼を開ける。見上げると、シロ先輩の顔はとても近くにあった。シロ先輩が真っ直ぐに私を見下ろしている。その瞳の奥にある熱に気がついて、ドクンと心臓が跳ねた。

 シロ先輩の言葉の意味を理解した途端、顔がカァッと赤くなる。きっと今の私は茹でダコみたいになっているに違いない。恥ずかしくて居ても立ってもいられず、私はギュッと強く目を閉じる。

 すると、唇に柔らかい感触が触れた。シロ先輩の唇だと理解するのにそう時間はかからなかった。それはすぐに離れてしまった。私は無意識にそれを追いかけて、今度は自分からキスをする。チュッとリップ音をさせて顔を離すと、シロ先輩は驚いたように目を大きく開いた。

 私は、シロ先輩の目を見て、はっきりと告げる。

「好き」

 シロ先輩は、一瞬息を飲むと、何かを言いかけて口を閉ざした。そして、もう一度シロ先輩の方から口づけてくる。今度はなかなか離れていかない。むしろ、どんどん深みを増していって、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだ。

 息苦しくなって薄く口を開くと、そこからヌルリと熱い舌が入り込んできた。歯列をなぞるように動き回るそれに翻弄されて、頭がくらくらとしてくる。先ほどとは比べものにならない程深いキスに、私の思考は甘く溶けていく。

 息が続かない。苦しさに思わず身じろぐと、シロ先輩がハッとしたように顔を離した。それから、バツが悪そうな顔で俯いた。

 そんなシロ先輩の様子を見た私は、クスッと小さく笑ってしまった。だって、シロ先輩があまりにも可愛かったから。

 そんな私に気づいたのか、シロ先輩は拗ねたような顔のまま、ムニッと私の頬をつねってきた。痛い。でも、全然嫌じゃない。

 いつの間にか、涙は完全に乾いていた。

 私が笑うのをやめると、シロ先輩は再び抱きしめてくれた。優しく包み込むような抱擁に、心の底から安堵する。やっぱり、この人の側が一番落ち着く。

 私はシロ先輩の胸に頭を預けながら、ぽつりと呟いた。

「幸せすぎて怖いなぁ」

 それは、とても小さな呟きだったけれど、シロ先輩はちゃんと拾ってくれたらしい。私の髪を撫でながら、シロ先輩は優しく言う。

「それは、俺のセリフだ」

 その言葉を聞いた私は嬉しくなって、シロ先輩の胸板にグリグリとおでこを押し付けた。
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