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去り行く背中を追いかける(3)
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私はもう一度、小さく呟いた。
「ごめんなさい」
私の答えを聞いたシロ先輩は、ガックリと肩を落とすと、再び大きなため息をつく。そんなシロ先輩の様子に、私の目には涙が滲む。
どうしてこんなことになったのだろう。ただ、いつものようにシロ先輩と一緒にいられればそれで良かったはずなのに。どうしてこんな事に……。
堪えきれず溢れ出した涙が頬を伝う。次から次に止めどなく流れ落ちる涙を見て、シロ先輩のギョッとした気配を感じた。それでも、私は嗚咽を止めることができない。
不意に、温かいものが私の頬に触れた。それは、私の涙を拭い去るように頬の上を優しく滑っていく。それがシロ先輩の手だと気づいて、驚いて涙目をシロ先輩に向けた。
シロ先輩は、泣きじゃくる私を見ながら困ったような顔をしている。それから、ポツリと言った。
「何で泣くんだよ」
私は慌てて袖で涙をぬぐう。ゴシゴシと擦っていると、シロ先輩に手を取られた。
「バカ。やめろって。赤くなってるぞ」
シロ先輩はぶっきらぼうに言った。それから、私から目を逸らすと独り言のような小さな声で言った。
「反則だろ、それ」
その言葉に何と返すべきなのか分からなくて、私が黙ったままでいると、そのうちに、シロ先輩は、私の手を取ったままゆっくりと歩き始めた。シロ先輩の手は大きくて温かい。その温もりを感じながら、手を引かれるままに歩を進める。
しばらく歩くと、あの神社へと戻ってきていた。境内へ入ると、シロ先輩は迷わず昼間私たちが話をしていたベンチへと向かった。
シロ先輩は何も言わずベンチに腰掛けると、繋いだままだった私の手を引く。私はされるがままに、ストンとシロ先輩の隣に収まった。
シロ先輩は何も言わない。私も何も言えない。二人の間に沈黙が流れる。聞こえるのは、時折揺れる葉ずれの音と、神社の前を通り過ぎる車の音くらいだった。
どのくらい時間が経っただろうか。シロ先輩が、ふーっと深く息を吐く音が聞こえたかと思ったら、突然、グイッと腕を引っ張られた。バランスを失って倒れそうになる私をシロ先輩が受け止める。
そして、次の瞬間には、私はシロ先輩の腕の中にいた。シロ先輩の鼓動が聞こえる。トクトクという少し早いリズムを聞きながら、私はゆっくりと目を閉じる。シロ先輩の体温を感じる。私よりもほんの僅かに高いその温度が心地良い。
(ずっとこうしていられたらいいのに)
そう思うのと同時に、シロ先輩の腕の力が強くなる。
「ごめんなさい」
私の答えを聞いたシロ先輩は、ガックリと肩を落とすと、再び大きなため息をつく。そんなシロ先輩の様子に、私の目には涙が滲む。
どうしてこんなことになったのだろう。ただ、いつものようにシロ先輩と一緒にいられればそれで良かったはずなのに。どうしてこんな事に……。
堪えきれず溢れ出した涙が頬を伝う。次から次に止めどなく流れ落ちる涙を見て、シロ先輩のギョッとした気配を感じた。それでも、私は嗚咽を止めることができない。
不意に、温かいものが私の頬に触れた。それは、私の涙を拭い去るように頬の上を優しく滑っていく。それがシロ先輩の手だと気づいて、驚いて涙目をシロ先輩に向けた。
シロ先輩は、泣きじゃくる私を見ながら困ったような顔をしている。それから、ポツリと言った。
「何で泣くんだよ」
私は慌てて袖で涙をぬぐう。ゴシゴシと擦っていると、シロ先輩に手を取られた。
「バカ。やめろって。赤くなってるぞ」
シロ先輩はぶっきらぼうに言った。それから、私から目を逸らすと独り言のような小さな声で言った。
「反則だろ、それ」
その言葉に何と返すべきなのか分からなくて、私が黙ったままでいると、そのうちに、シロ先輩は、私の手を取ったままゆっくりと歩き始めた。シロ先輩の手は大きくて温かい。その温もりを感じながら、手を引かれるままに歩を進める。
しばらく歩くと、あの神社へと戻ってきていた。境内へ入ると、シロ先輩は迷わず昼間私たちが話をしていたベンチへと向かった。
シロ先輩は何も言わずベンチに腰掛けると、繋いだままだった私の手を引く。私はされるがままに、ストンとシロ先輩の隣に収まった。
シロ先輩は何も言わない。私も何も言えない。二人の間に沈黙が流れる。聞こえるのは、時折揺れる葉ずれの音と、神社の前を通り過ぎる車の音くらいだった。
どのくらい時間が経っただろうか。シロ先輩が、ふーっと深く息を吐く音が聞こえたかと思ったら、突然、グイッと腕を引っ張られた。バランスを失って倒れそうになる私をシロ先輩が受け止める。
そして、次の瞬間には、私はシロ先輩の腕の中にいた。シロ先輩の鼓動が聞こえる。トクトクという少し早いリズムを聞きながら、私はゆっくりと目を閉じる。シロ先輩の体温を感じる。私よりもほんの僅かに高いその温度が心地良い。
(ずっとこうしていられたらいいのに)
そう思うのと同時に、シロ先輩の腕の力が強くなる。
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