クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロヤギさんにまた会えた?!(5)

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 それから暫く経って、だいぶ酔いが回った頃。不意に白谷吟が思い出したように口を開いた。

「そういえば、矢城さん。あれから、思い出の君には会えたの?」

 白谷吟の問い掛けに、私は一瞬言葉を失う。

(何故、このタイミングでそんな質問を?)

 酔った頭では、上手く思考がまとまらない。私は、すぐに答えることができずにいた。私が何かを答える前に、萌乃が興味津々といった表情で身を乗り出す。

「え? もしかして、明日花さんの恋バナですか!?」

 萌乃は、目を輝かせて私を見る。その視線に耐えられず、思わず顔を背けた。外した視線の先では、シロ先輩が珍しく動揺しているように見えた。その隣で白谷吟は、相変わらずニコニコと微笑んでいる。

(全くこの人は……)

 白谷吟のマイペースさに内心毒づく。面倒くさい話になるのはごめんだ。私は戸惑いながらも、必死にこの話題を回避する方法を考える。だが、アルコールで鈍った脳は、なかなか良い回答を見つけ出してくれない。私は、諦めて口を開く。

「別に、そういうことじゃないの。以前に小さい頃の思い出を白谷先輩に話したことがあるんだけど、それを白谷先輩が意味ありげに言っただけで、特に深い意味はないから」

 早口に捲し立てるように言い切ると、ふうっと息を吐いた。

(これで納得してくれるかな? )

 そう思いながら萌乃の様子を見て、私はガックリと肩を落とす。萌乃は不思議そうな表情をしていた。

(これは駄目かも)

「それって、つまり、明日花さんの初恋の話ってことですよね?」

 女の子らしく恋バナ好きの萌乃は、完全に誤解しているようだ。こうなったらもう否定しても無駄だろう。それでも、私は往生際悪く抵抗を試みる。

「初恋とかそんなんじゃないのよ。ただ、小学生の頃に、いっとき文通のようなことをしていただけなの」

 しかし萌乃は、ますます興奮した様子を見せる。私の話を聞いていないのか、萌乃は夢見る乙女のように瞳をキラキラとさせていた。

 萌乃のこういうところは、理解できない。私は苦笑いを浮かべる。そんな引き気味の私とは対照的に、萌乃は、何とも楽しそうだ。

「文通? メールとかじゃなくて? 珍しいですね。なんか、昔の少女漫画みたい! 相手の子が転校しちゃって……とかですか?」

 萌乃は、ぐいぐいと迫ってくる。私は、萌乃の勢いに押されて思わず体を仰け反らせながら、小さく首を振る。「違う」という意思表示だ。

 すると、今まで黙っていたシロ先輩が口を開いた。
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