クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロヤギさんにまた会えた?!(1)

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 ざわめく店内。私は、テーブルの上に所狭しと並ぶ料理を見渡して、思わずごくりと喉を鳴らした。

 シロ先輩と白谷吟の行きつけの店だという居酒屋に来ている。なんでも、この店は二人のバイト先だったらしく、店長とも知り合いだという。シロ先輩たちは常連というだけあって、席に着くなり、さっさと注文を済ませてしまった。メニューを見る暇もなく、あれよあれよと出てきた品々に正直戸惑っている。

 こんなに食べられるだろうか。

 不安になりながらも、空っぽの私のお腹は、もう待ったなしの状態だ。いただきますと両手を合わせると、早速手を伸ばす。

 まずは、サラダから。野菜スティックを口に運ぶ。シャリっという歯ごたえと共に、爽やかなレモンドレッシングの味が広がる。

(美味しい)

 続けて、焼き鳥に手を伸ばせば、こんがり焼けた皮の香ばしい匂いが食欲をそそる。一串手に取ると、そのまま豪快に齧り付いた。溢れ出た肉汁が、口いっぱいに広がる。噛めば噛むほど旨みが口の中に広がっていくようだ。

(あぁ、幸せ)

 思わず頬が緩む。続いて、フライドポテトに箸を伸ばし、口に運べば、カリッとした食感とともに、ホクホクとした芋の甘さが口の中を支配する。その次には、エビマヨ。ぷっくらとした海老の身が、濃厚なソースによく合う。

 私は、パクパクと皿の上のものを口に運んでいった。そして、いよいよメインディッシュ。大皿には、山盛りの唐揚げが盛られている。

 私はその皿を見つめると、ゆっくりと唐揚げを一つつまみ上げ、ぱくりと食べた。ジュワッと広がる鶏の脂に舌鼓を打ちながら、ビールで流し込む。

(うん、最高!)

 私はゴクリと喉を鳴らすと、また一つ、唐揚げに手を伸ばす。今度は、ネギ塩ダレをつけて食べてみる。

(う~ん。これも絶妙な味付け!)

 私は夢中で箸を動かしていた。不意に視線を感じて顔を上げれば、白谷吟がこちらを見て笑っている。

 そんなに夢中になって食べていたかなと、恥ずかしくなって視線を外すと、向かいに座っていたシロ先輩と目が合った。

「クロ、お前食いすぎ」

 シロ先輩が呆れたように言う。

「でも、これ全部美味しすぎるんですもん。そう言うシロ先輩だって、バクバク食べてるじゃないですか」

 そう言い返せば、シロ先輩は苦笑いを浮かべた。それから、私の手元にある唐揚げをヒョイと摘まみ上げる。そのまま、私の口元まで持って来ると、黙れとでも言いたげに、有無を言わさず、それを私の口に押し込んだ。
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