クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロがピンクに染まるとき(7)

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「お、おう。そうだぞ。そうに決まってるだろ。他にどんな意味があるって言うんだ」

 私の言葉に即座に乗っかってきたシロ先輩に、白谷吟は揶揄いの手を緩めない。

「あれ~? 史郎は覚えてないんじゃなかったの?」
「バカ。吟。お前は少し黙ってろ」

 いつも気だるげで、愛想のないシロ先輩がここまで取り乱すなんて、白谷吟の揶揄いたくなる気持ちが少しわかるような気がする。思わずクスリと笑うと、シロ先輩にジロリと睨まれた。でも、耳を赤く染め、どこかバツの悪そうな顔をして睨んできても全く怖くない。私は、ニカリと笑みを深める。

「大丈夫ですよ。シロ先輩。よく分かっていますから。先輩が私をかわいがってくれていることは。でも、あれだけは本当にやめてくださいよ」
「なんだよ?」
「さっきも言ったじゃないですか。頭をグリグリ撫でまわすのですよ。髪がボサボサになるから、本当に嫌です」

 プクリと頬を膨らませてみせれば、シロ先輩に鼻で笑われる。

「っんだよ。そんなこと気にしなくたって……」
「うわ~。史郎。そんなことって、デリカシーないなぁ。女の子は、誰だってそういうのを気にするんだよ。ねぇ。萩田さん?」
「そうですね。私だったら、せっかくばっちりセットを決めた日に、髪をボサボサにされたら、それだけで、テンションダダ下がりですね」

 何故だか全員から非難をされたシロ先輩は、つまらなさそうにそっぽを向いた。

「わーったよ。俺が悪うございました。もうやんねぇよ」

 不貞腐れているシロ先輩の横顔は、なんだか、いたずらを咎められた後のバツが悪そうな男の子の顔だ。いつもの大人ぶっている横顔とは少し違って、かわいいと思った瞬間、また心臓がドキドキと音を立て始めた。

「あの、シロ先輩。グリグリされるのは、ちょっと困りますけど、私、ポンポンは好きですよ」

 一人拗ねている先輩に、声をかければ、びっくりしたように目を丸くしたシロ先輩がこちらを向いた。

「はぁ?」
「だ、か、らぁ、頭ポンポンはしてくれて大丈夫ですよ!」

 そう言って、サッとシロ先輩の手を取り、私は自分の頭の上にポンと乗せた。

 シロ先輩はされるがままという感じで、パチパチと瞬きを繰り返し、口をポカンとあけた間抜け顔のまま固まっている。案外私は、この間抜け顔も好きだったりする。そんな事を思いながら内心ニンマリとほくそ笑んでいたら、笑いを極限まで堪えたような白谷吟の声がした。

「今日は、随分と大胆だね。矢城やぎさん」
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