クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロがピンクに染まるとき(6)

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 いつもの何もかもを見透かしたような白谷吟の視線は、まるで、私の気持ちを知っていると言いたげに笑っている気がして、思わずスイっと目を逸らしてしまう。

 私の気持ちって、やっぱり?

 自問自答をしながら逸らした視線は、そのまま流れるようにシロ先輩へと向かった。思いがけずバチリと視線が重なる。不意打ちを食らった私は露骨に視線を逸らしてしまった。

 ああ、何をやっているんだ私は。何だか感じ悪いな。

 そんな自己嫌悪が、ドキドキと撥ねる鼓動と共に次第に大きくなっていく。

 私とシロ先輩の間に流れる微妙な空気を察してか、それとも、そんな感じすらも楽しんでいるのか、白谷吟がカラッとした声でシロ先輩を揶揄う。

「もう。史郎が睨むから、矢城やぎさんも萩田さんもビビってるじゃん」
「はぁ? 別に睨んでねぇし」
「ああ、もう。ごめんね。二人とも。怖い思いさせて」
「だから、睨んでねぇし」
「はいはい。史郎は矢城やぎさんに構ってもらえなくて機嫌が悪いんだよね」

 カラカラと笑いながらそんなことを言い放った白谷吟の言葉に、シロ先輩が食い気味に抗議の声をあげた。

「バカ。吟。お前、何言ってんだ。何で俺がクロなんかに……」

 白谷吟の言葉に、やはり頭に乗せた手を払い除けたことを怒っていたのかと内心でため息を吐きつつ、シロ先輩にチラリと視線をやれば、怒りに顔を赤く染めたシロ先輩が幼馴染を締め上げていた。

 珍しい取り乱し方に少々ポカンとしていると、隣で萌乃が「やっぱりね」と小声で納得の声をあげる。萌乃の顔はどこか満足そうだ。

 締め上げられている白谷吟もどこか楽しそうで、辞めればいいのにさらにシロ先輩を煽るような事を口にする。

「ほら、だって、前に飲み会の席で、クロを虐めていいのは俺だけだ~とか言ってたじゃない?」
「は? なんだそれ? 俺はそんなことは知らん。どうせお前のでっち上げだろ」
「本当に言ってたんだって。ねぇ、矢城やぎさん?」
「えっ? あ~、そんなこと言ってましたね。あの時、シロ先輩、かなり酔ってましたから……」

 振られた質問にさらりと答えてから、ハタと気が付いた。これは、覚えていないふりをして、答えないほうがよかったのでは。

 私の答えを聞いた萌乃と白谷吟は明らかにニヤけた顔になり、対してシロ先輩は、耳まで赤く染まっている。

 そんな周りの反応に、私は慌てて言葉を足した。

「でも、あれって、コンビだからって意味ですよね。コンビだから揶揄っていいのは俺だけっていう……」
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