クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロがピンクに染まるとき(5)

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 萌乃のその言葉に、心臓が返事をするかのようにドキリと撥ねた。それでも私が無言を貫くと、萌乃は、なおも畳みかけるように問いかけてくる。

「何気なく八木さんの事を目で追ったりしていませんか?」
「それは……」

 何と返せばいいか分からなくて、口籠るしかない。確かに、最近はシロ先輩の姿を無意識に探していたし、横顔にドキドキとしていた。でも、それを認めるということは、つまり、萌乃の期待する答えに行きついてしまうということで、何とも面映ゆい。できることなら、勘違いで押し通したい。

「明日花さんがどうして、自分の気持ちに正直になれないのか分かりませんけど、恋って楽しくないですか? なんだか、頑張ろうって力も湧いてきますし。私は、否定してしまうのは勿体ないと思いますよ」
「いや、あのね、萌ちゃん……」
「私は、白谷さんに少しでも追いつきたくて、仕事を頑張っている今の自分が好きです。そりゃ、たまに他の女性に嫉妬とかして、嫌な気持ちになったりもしますけど、それでも、恋をしていると毎日が明るくなるし、楽しくなる。そんな気がしませんか?」

 萌乃は後方にいる自分の想い人へと視線を向ける。その顔は、言葉の通り楽し気で、彼女の頬はほんのりと色付いていた。

 萌乃につられるように、ぼんやりと先輩たちを見る。白谷吟は、シロ先輩を揶揄っていたのか、いつもの爽やかスマイルだし、対してシロ先輩は、相変わらずの仏頂面だ。

「何、どうしたの?」

 私たちの視線に気が付いた白谷吟が、のんびりと問いかけてきた。その問いに、萌乃は嬉しそうに声を弾ませる。

「なんでもないですよ。ちょっと明日花さんと恋のお話をしていただけです。ガールズトークです」
「ガールズトークなんて聞いたら、ますます気になるね。僕たちも話に加わっても?」
「えっ? 白谷さんのコイバナですか? いいんですか? 私いろいろ聞いちゃいますよ」

 萌乃は、いつもよりも少しハイテンションで、白谷吟と言葉を交わす。見た目よりも恋に積極的なタイプなのかもしれない。

「あはは。僕の話より、たぶん、史郎の話の方が面白いよ」

 隣の仏頂面をあっさりと生贄にして、白谷吟は萌乃をさらりと躱す。そんな幼馴染に、慌てたようにシロ先輩が抗議の声をあげた。

「おい、吟。余計な事言うなよ」
「余計な事ってなんだよ。そんなこと言うと、逆に気になっちゃうよね。矢城やぎさん、萩田さん」

 そう言いながら、白谷吟は楽しそうに私に目配せをしてきた。
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