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シロがピンクに染まるとき(4)
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パタパタと軽い足音を立てて私に並んだ萌乃は、小さく小首を傾げながら、小声で聞いてきた。
「八木さんと何かあったんですか?」
その問いに、私は軽く肩を竦めてみせる。
「何かあったっていうか。軽い口喧嘩みたいなものよ。実際、どうでも良い内容だし。でもまぁ、どうでも良い内容だからこそ、今さら蒸し返すのもなんだし、何となくこんな雰囲気になっちゃってるの。ごめんね。気まずいよね」
「いえ。まぁ、誰しもうまく嚙み合わないときはありますから。私は、そこまで気にしませんけど。でも、明日花さんは良いんですか?」
「何が?」
「せっかくの好きな人との食事なのに、気まずいままで」
萌乃の言葉に、凪いでいたはずの私の心臓が、再び暴れ始めた。
「あのね、萌ちゃん。それ、勘違いだから」
少しうんざりしたように顔を顰めてみせるが、萌乃は、不思議そうな顔を見せてから、後ろをついてくる先輩二人にチラリと視線を送る。
「そうなんですか? 私はてっきりお二人はお互いに想い合っているのかと思っていましたが」
「なっ!!」
思わず大きな声が出た。突然、この子は何を言い出すのだろう。暴れ始めた心臓は、今にも私の体から飛び出してしまいそうなほどに、跳ね回っている。
「矢城さん、どうかした?」
面白がるような白谷吟の声に、「なんでもないです」と平静を装って答えると、私は、慌てて萌乃に口を寄せた。
「どうしてそうなるのよ?」
挙動不審に慌てる私を余所に、萌乃は楽しそうに声を弾ませる。
「どうしてと言われても。お二人と一緒にお仕事をさせて頂いて、近くでお二人の事を見ていたので。阿吽の呼吸というか、二人だけの空気感みたいなものが出来上がっているなと思ったんです。たぶん、周りの皆さんもそう思ってると思いますけど?」
「そりゃ、三年以上もコンビ組んで仕事しているんだから、それなりにお互いの事は分かってきているけど……」
「もしかして、明日花さん」
私のパッとしない返しに、萌乃は、まさかと目を丸くする。
「な、なに?」
「ご自分の気持ちに気が付いていないわけじゃないですよね?」
「いや、だからね。それはあなたの勘違いなんだって」
「そうでしょうか? 私、こういうカンは結構当たるんですけど」
萌乃はそう言いながら、軽く腕を組んで考えるような仕草をして見せた。そんな萌乃をもう一度軽くあしらう。
「本当にあなたの勘違いよ」
「え~。明日花さんは、八木さんを見てドキッとしたりしませんか?」
「八木さんと何かあったんですか?」
その問いに、私は軽く肩を竦めてみせる。
「何かあったっていうか。軽い口喧嘩みたいなものよ。実際、どうでも良い内容だし。でもまぁ、どうでも良い内容だからこそ、今さら蒸し返すのもなんだし、何となくこんな雰囲気になっちゃってるの。ごめんね。気まずいよね」
「いえ。まぁ、誰しもうまく嚙み合わないときはありますから。私は、そこまで気にしませんけど。でも、明日花さんは良いんですか?」
「何が?」
「せっかくの好きな人との食事なのに、気まずいままで」
萌乃の言葉に、凪いでいたはずの私の心臓が、再び暴れ始めた。
「あのね、萌ちゃん。それ、勘違いだから」
少しうんざりしたように顔を顰めてみせるが、萌乃は、不思議そうな顔を見せてから、後ろをついてくる先輩二人にチラリと視線を送る。
「そうなんですか? 私はてっきりお二人はお互いに想い合っているのかと思っていましたが」
「なっ!!」
思わず大きな声が出た。突然、この子は何を言い出すのだろう。暴れ始めた心臓は、今にも私の体から飛び出してしまいそうなほどに、跳ね回っている。
「矢城さん、どうかした?」
面白がるような白谷吟の声に、「なんでもないです」と平静を装って答えると、私は、慌てて萌乃に口を寄せた。
「どうしてそうなるのよ?」
挙動不審に慌てる私を余所に、萌乃は楽しそうに声を弾ませる。
「どうしてと言われても。お二人と一緒にお仕事をさせて頂いて、近くでお二人の事を見ていたので。阿吽の呼吸というか、二人だけの空気感みたいなものが出来上がっているなと思ったんです。たぶん、周りの皆さんもそう思ってると思いますけど?」
「そりゃ、三年以上もコンビ組んで仕事しているんだから、それなりにお互いの事は分かってきているけど……」
「もしかして、明日花さん」
私のパッとしない返しに、萌乃は、まさかと目を丸くする。
「な、なに?」
「ご自分の気持ちに気が付いていないわけじゃないですよね?」
「いや、だからね。それはあなたの勘違いなんだって」
「そうでしょうか? 私、こういうカンは結構当たるんですけど」
萌乃はそう言いながら、軽く腕を組んで考えるような仕草をして見せた。そんな萌乃をもう一度軽くあしらう。
「本当にあなたの勘違いよ」
「え~。明日花さんは、八木さんを見てドキッとしたりしませんか?」
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