クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
93 / 155

シロがピンクに染まるとき(4)

しおりを挟む
 パタパタと軽い足音を立てて私に並んだ萌乃は、小さく小首を傾げながら、小声で聞いてきた。

「八木さんと何かあったんですか?」

 その問いに、私は軽く肩を竦めてみせる。

「何かあったっていうか。軽い口喧嘩みたいなものよ。実際、どうでも良い内容だし。でもまぁ、どうでも良い内容だからこそ、今さら蒸し返すのもなんだし、何となくこんな雰囲気になっちゃってるの。ごめんね。気まずいよね」
「いえ。まぁ、誰しもうまく嚙み合わないときはありますから。私は、そこまで気にしませんけど。でも、明日花さんは良いんですか?」
「何が?」
「せっかくの好きな人との食事なのに、気まずいままで」

 萌乃の言葉に、凪いでいたはずの私の心臓が、再び暴れ始めた。

「あのね、萌ちゃん。それ、勘違いだから」

 少しうんざりしたように顔を顰めてみせるが、萌乃は、不思議そうな顔を見せてから、後ろをついてくる先輩二人にチラリと視線を送る。

「そうなんですか? 私はてっきりお二人はお互いに想い合っているのかと思っていましたが」
「なっ!!」

 思わず大きな声が出た。突然、この子は何を言い出すのだろう。暴れ始めた心臓は、今にも私の体から飛び出してしまいそうなほどに、跳ね回っている。

矢城やぎさん、どうかした?」

 面白がるような白谷吟の声に、「なんでもないです」と平静を装って答えると、私は、慌てて萌乃に口を寄せた。

「どうしてそうなるのよ?」

 挙動不審に慌てる私を余所に、萌乃は楽しそうに声を弾ませる。

「どうしてと言われても。お二人と一緒にお仕事をさせて頂いて、近くでお二人の事を見ていたので。阿吽の呼吸というか、二人だけの空気感みたいなものが出来上がっているなと思ったんです。たぶん、周りの皆さんもそう思ってると思いますけど?」
「そりゃ、三年以上もコンビ組んで仕事しているんだから、それなりにお互いの事は分かってきているけど……」
「もしかして、明日花さん」

 私のパッとしない返しに、萌乃は、まさかと目を丸くする。

「な、なに?」
「ご自分の気持ちに気が付いていないわけじゃないですよね?」
「いや、だからね。それはあなたの勘違いなんだって」
「そうでしょうか? 私、こういうカンは結構当たるんですけど」

 萌乃はそう言いながら、軽く腕を組んで考えるような仕草をして見せた。そんな萌乃をもう一度軽くあしらう。

「本当にあなたの勘違いよ」
「え~。明日花さんは、八木さんを見てドキッとしたりしませんか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃の愛

うみの渚
恋愛
王は王妃フローラを愛していた。 一人息子のアルフォンスが無事王太子となり、これからという時に王は病に倒れた。 王の命が尽きようとしたその時、王妃から驚愕の真実を告げられる。 初めての復讐ものです。 拙い文章ですが、お手に取って頂けると幸いです。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...