クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロがピンクに染まるとき(3)

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 互いにムッスリとしてそっぽを向いたまま、しばらく待っていると、先程何故か話題になっていた白谷吟が相変わらずの爽やかスマイルで現れた。

「おーい。史郎、矢城やぎさん、お待たせ」
「遅いぞ。吟」

 シロ先輩が不機嫌そうな声で、白谷吟に文句を言っていると、白谷の後ろからひょっこりと顔を出した萌乃が、申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。八木さん。白谷さんが遅くなったのは、私のせいなんです。白谷さんは定時であがれたんですけど、私が仕事でミスしてしまって……」
「大した事なかったから、気にしなくていいんだよ。萩田さん。それに、前もって時間変更の連絡はしておいたんだし。史郎が短気なだけだから」

 シロ先輩の文句は聞き流しつつ、ニコニコと萌乃を宥める白谷吟は、さすが爽やかパーフェクトヒューマン。気遣いのできる人だ。

「でも、あの……明日花さんもすみません。お待たせしてしまって」
「白谷先輩の言う通り、事前に時間の変更連絡はもらってたから、別にそんなに待ってないよ。気にしなくて大丈夫だから」

 私にも申し訳なさそうに頭を下げた萌乃に、私は、それまでムスッと固まっていた頬の筋肉を緩めて、手をヒラヒラと振る。

 それでも、どこか気にしている様子の萌乃は、モジモジと何か言いたそうに、視線を彷徨わせる。

「本当に気にしなくても平気だよ」

 私が笑いかけると、萌乃は心配そうにシロ先輩の方へチラリと視線を向けてから、一呼吸おいて口を開いた。

「あの、えっと今更なんですけど、今日は、私もご一緒させていただいていいんですか? 皆さんだけでお食事に行かれる予定だったのでは?」
「え? 別にそんなのいいよ。たまたま、みんな定時で仕事が終われそうだったから、夕飯を食べに行くことになったんだし。せっかく萌ちゃんも参加なら、プロジェクト終了の打ち上げって事にしましょうよ。ね! 白谷先輩」

 些細なことを気にする萌乃の気掛かりを、私はサラリと流す。実際そうなのだから、何を気にする事があるだろうか。

 なぜか言い合いになってしまって不機嫌そうなシロ先輩の顔を視界の端に捉えつつも、スルーを決めこんだ私は一人店へと足を向けた。

 すぐ後ろでは、白谷吟がシロ先輩を揶揄うようにして笑いを含んだ声を投げているのが聞こえる。

「史郎。お前、矢城やぎさんを怒らせるようなこと何かしたんだろ?」
「っるせ。俺は別に何もしてない」

 明らかに機嫌の悪そうなシロ先輩のトーンに、私の心臓は凪状態だ。
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