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シロがピンクに染まるとき(1)
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私の心臓は少し前からおかしい。
今もドキドキと激しく打ち付けている。そのうちに耐えられなくなって私の心臓は壊れてしまうかもしれない。
心臓が壊れてしまう前に何とかしなくてはと思っているのだが、どうすればいいのかと、途方に暮れる毎日。原因が分からないわけではない。むしろわかりすぎるくらいに分かっている。だから、困っている。
私の心臓がドキドキと激しく打つ理由は、今、私の隣で、ぼうっと空を見上げているシロ先輩にある。
シロ先輩とコンビを組んで仕事をするようになって早四年。これまで、どんなに近くに居てもこんなにドキドキすることなんてなかった。並んで歩いたこともある。向かい合って食事をしたこともある。肩を寄せ合ってパソコン画面を睨んだことだってあった。シロ先輩が近くに居たシュチエーションなんていくらでもあったのだ。どんなに距離が近くても、全然何ともなかったのに。
あの時から、私の心臓は狂いだした。
数か月前、課を越えて動いていたチームの後輩に言われた一言。それが私の心臓を暴れさせる引き金を引いたのは間違いない。
“明日花さんは、白谷さんではなく、八木さんがお好きだったんですね”
新入社員の萩田萌乃は自身の教育係である白谷吟に好意を寄せている。しかし、当の白谷は爽やかパーフェクトヒューマンで、彼を狙っている女性は実に多い。白谷と比較的よく話をしている私を、恋のライバルの一人だと勘違いしていた萌乃が、自身の勘違いを詫びてきた時の言葉がそれだった。それ自体が勘違いだと言いたかったのに、私は咄嗟にその勘違いを否定することができなかった。
それどころか、萌乃の勘違い指摘を受けてから、困ったことにシロ先輩が輝いて見えるのだ。仕事が終わった時のどや顔が、私を揶揄っているときのやんちゃな顔が、少し俯き加減になって真剣に仕事をしている横顔が。
今だって、何も考えていないだろうぼうっとした、ちょっと間の抜けた顔でさえ輝いて見える。
チラリと盗み見ていた横顔から目が離せないでいると、突然、シロ先輩がこちらを向いた。
「なんだよ、クロ。そんなに見つめたくなるほど、俺はイケメンか?」
「なっ! えっ? はっ? な、何言ってるんですか? 自分でイケメンとか言います?」
明らかに動揺をしつつも、なんとかそれを隠して言い返す。そんな私に、ニシシと笑みを見せてシロ先輩は、腰をあげた。
「まぁ、吟のようなイケメンではないかもしれないな。悔しいが」
今もドキドキと激しく打ち付けている。そのうちに耐えられなくなって私の心臓は壊れてしまうかもしれない。
心臓が壊れてしまう前に何とかしなくてはと思っているのだが、どうすればいいのかと、途方に暮れる毎日。原因が分からないわけではない。むしろわかりすぎるくらいに分かっている。だから、困っている。
私の心臓がドキドキと激しく打つ理由は、今、私の隣で、ぼうっと空を見上げているシロ先輩にある。
シロ先輩とコンビを組んで仕事をするようになって早四年。これまで、どんなに近くに居てもこんなにドキドキすることなんてなかった。並んで歩いたこともある。向かい合って食事をしたこともある。肩を寄せ合ってパソコン画面を睨んだことだってあった。シロ先輩が近くに居たシュチエーションなんていくらでもあったのだ。どんなに距離が近くても、全然何ともなかったのに。
あの時から、私の心臓は狂いだした。
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それどころか、萌乃の勘違い指摘を受けてから、困ったことにシロ先輩が輝いて見えるのだ。仕事が終わった時のどや顔が、私を揶揄っているときのやんちゃな顔が、少し俯き加減になって真剣に仕事をしている横顔が。
今だって、何も考えていないだろうぼうっとした、ちょっと間の抜けた顔でさえ輝いて見える。
チラリと盗み見ていた横顔から目が離せないでいると、突然、シロ先輩がこちらを向いた。
「なんだよ、クロ。そんなに見つめたくなるほど、俺はイケメンか?」
「なっ! えっ? はっ? な、何言ってるんですか? 自分でイケメンとか言います?」
明らかに動揺をしつつも、なんとかそれを隠して言い返す。そんな私に、ニシシと笑みを見せてシロ先輩は、腰をあげた。
「まぁ、吟のようなイケメンではないかもしれないな。悔しいが」
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