クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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砂浜の結婚式(3)

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「まぁな。今日は絶対に遅れるわけにはいかないからさ」
「ですね。ところで、白谷先輩と萌ちゃんはまだですか?」

 辺りを見回したが、二人らしき人影はなかった。まだ来ていないのだろうか。腕時計を見ると、時刻はそろそろ九時になろうとしている。待ち合わせの時間まであと数分だ。人探しをするようにキョロキョロしていると、シロ先輩が口を開いた。

「あいつらなら、先に行ったぞ」

 予想外の言葉を聞いて、私は驚きの声を上げた。

「えっ!? どうして先に行っちゃうんですか? 一緒に行くんじゃなかったんですか?」

 するとシロ先輩は、フフンと鼻を鳴らした。シロ先輩の話によると、どうやら萌乃が「人がいない間に動線確認をしておきたい」と言い出したらしい。それに付き合う形で、白谷吟も一緒について行ったようだ。

「誰かも、昔はあいつみたいに仕事熱心だったんだけどなぁ」

 シロ先輩は、そう言ってニヤッとこちらを見る。その視線を受けて、思わず焦った。シロ先輩が言っているのは、十中八九、私のことである。

「いや、別に今だって適当に仕事してませんよ。私だってちゃんと考えて……」

 慌てて反論すると、シロ先輩はケラケラと笑う。完全に遊ばれている。悔しくて唇を噛んでいると、シロ先輩は真面目な表情に戻り、私に向き直る。

「わかってるよ。クロが頑張ってることは俺が一番よく知ってる。ずっと隣で見てきたんだから。さ、今日も気負わずいこうぜ」

 シロ先輩はサラリとそんな事を言うと、ポンと私の肩を叩いて歩き出す。私は慌ててシロ先輩の後を追いかけた。

 歩きながら横顔を見て、ドキッとする。シロ先輩の横顔がいつもより大人っぽく見えたからだ。シロ先輩がいつもよりカッコいいと思った。

(シロ先輩に、そんなこと言われたら、頑張らない訳にはいかないじゃないですか……)

 私は密かに闘志を燃やしていた。今日の企画は必ず成功させる。そう心に誓うのだった。

 今日は私たちが企画した、砂浜での結婚式の当日である。天気にも恵まれ、絶好の結婚式日和である。

 会場となるのは、ホテルの隣の砂浜。私たちがマーケティングリサーチを行った結果、チャペルや神前式といった従来の挙式以外に、リゾート婚やガーデンウェディングなどの唯一無二の挙式を希望するカップルが意外と多いことが分かった。

 そこで、私たちは体験型挙式を企画した。今回はビーチウエディング。もちろん、通常の挙式と同じように、披露宴も行う予定になっている。
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