クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
63 / 155

好き、かもしれない(3)

しおりを挟む
 私の質問に、萌乃は不意打ちを喰らったような顔をして固まった。しばらくの間、自問自答をするかのように無言になる。

「白谷先輩に? それとも、周りの人たちに?」

 沈黙を埋めるように、私は選択肢を投げかける。すると萌乃は、それを口の中でブツブツと繰り返し、やがて答えがでたのか、ゆっくりと口を開いた。

「やはり、白谷さんにです。課の皆さんにも迷惑ばかりかけているので、もちろん申し訳なく思っているのですが、それ以上に、白谷さんの時間を私が奪っていることが申し訳なくて。私が仕事ができないばかりに、白谷さんはいつも私のフォローをしてくださるのですが、そのせいで、ご自身の仕事も滞りがちなようですし」

 萌乃は、申し訳ないと繰り返し言うが、私は、それを首を振って否定する。

「萌ちゃん。それは違うよ。申し訳なくなんかない。あなたは、新人なの。仕事ができないのも、ミスがあるのも当たり前。それを白谷先輩がフォローするのは、当然のことだよ。だって、あなたの教育係なんだから」
「それは、そうかもしれませんが」
「あなたを育て、フォローするのが、白谷先輩の仕事なの。先輩は仕事をしているだけだから、そんなに思い悩むことはないと思うけど?」
「そうかもしれないですが、やはり……」

 どんなに気にしなくてもいいと慰めても、萌乃の表情は暗いまま。押してダメなら引いてみろじゃないが、慰めがダメならと、私は発破をかけてみる。

「新人のあなたが今やるべきことは、ミスやできないことにウダウダ悩むことなんかじゃなくて、ミスから仕事を学ぶことなんじゃない? それが、一番白谷先輩の助けになると思うよ」

 しかし、萌乃の反応は鈍い。萌乃は、項垂れて力なく首を振る。そんな萌乃の姿に私は違和感を感じた。仕事ができない。仕事でミスをした。そういうことに落ち込むことは私もあるし、新人ならば、なおさらそういう場面に直面しやすいとは思うのだが、いかに入社したての新人といえど、この自己肯定感の低さはどうだろうか。

 自分は仕事ができないと飄々と言いつつ、仕事のできる先輩と自身を比べ激しく落ち込むとは、なんだか、仕事に対するモチベーションがアンバランスな気がする。もしかして、彼女の懸念の根本は仕事ではないのだろうか。

 もしそうならば、私がそこまで気に掛けることでもないような気はするが、もし懸念事項が仕事関係ならば、これから一緒に仕事をしていくうえで躓く原因になりかねない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...