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好き、かもしれない(2)
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コンビとしての相性が悪ければ、仕事も捗らなくなる。萌乃の暗い表情から、そんな懸念を感じ、話を聞く姿勢をみせる。
しかし萌乃は、曖昧な表情を浮かべ、首を振った。
「いえ。そう言う訳じゃないんです」
「そうなの? でも、何かあったから、白谷先輩の事を気にしているんじゃないの?」
「いえ。本当に、何かあったわけじゃないんです。白谷さんは、優しいですし、いつも丁寧に仕事を教えてくださいますし」
「だよねー。私は、課が違うから、白谷先輩と一緒に仕事するのは、今回が初めてなんだけど、でも、いつでも周りに気を遣ってるところとか、笑顔で仕事してるところとか、社会人として見習いたいなぁと思ってる人だよ」
「やっぱり、明日花さんもそう思います?」
私の言葉に反応して、萌乃がずいっと体ごと迫ってくる。どうやら、白谷のことを苦手に思っているわけではないようだ。
「う、うん」
萌乃の不可解な反応に若干焦りつつ、相槌を打つと、彼女は、またもや暗い顔になる。
「えっ? ちょっと。どうしたのよ? さっきから」
「……私には、無理なんです」
萌乃は俯くと、膝の上で拳を握り、悔しそうに声を振るわせた。
「私は、白谷さんのように出来ません。せっかく教えて頂いているのに……」
なるほど。どうやら、萌乃は仕事の壁にぶち当たっているようだ。比べる相手が『社内イチの爽やかイケメン』と、女子社員の間で名高い白谷吟とは。
まぁ、自身の教育係なのだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、白谷吟は、ただの爽やかイケメンではない。頭の回転が速く、仕事が早くて丁寧と、こちらも社内外から一目置かれている存在である。
そんな、『顔良し頭良し性格良し』の三拍子揃ったパーフェクトヒューマンと自身を比べるとは、実は萌乃は先程の発言とは裏腹に、仕事に対して意識高い系女子なのだろうか。
私には、彼を目指すのは無理だと思いつつ、落ち込む萌乃に声を掛ける。
「萌ちゃんはさ、まだ配属が決まったばかりで、聞いたことがないかもしれないけど、白谷先輩は、うちの会社のエースって周りに言われている人なんだよね。だから、そんな凄い人と同じようにはいかないよ。だって、まだ仕事を始めたばかりじゃない」
「それは、そうかも知れないですけど、むしろ、そんなに凄い期待をされている人に教えてもらっているのに、全然出来ないことが申し訳なくて」
「それは、誰に対して?」
「え?」
「誰に対して、申し訳ないの?」
しかし萌乃は、曖昧な表情を浮かべ、首を振った。
「いえ。そう言う訳じゃないんです」
「そうなの? でも、何かあったから、白谷先輩の事を気にしているんじゃないの?」
「いえ。本当に、何かあったわけじゃないんです。白谷さんは、優しいですし、いつも丁寧に仕事を教えてくださいますし」
「だよねー。私は、課が違うから、白谷先輩と一緒に仕事するのは、今回が初めてなんだけど、でも、いつでも周りに気を遣ってるところとか、笑顔で仕事してるところとか、社会人として見習いたいなぁと思ってる人だよ」
「やっぱり、明日花さんもそう思います?」
私の言葉に反応して、萌乃がずいっと体ごと迫ってくる。どうやら、白谷のことを苦手に思っているわけではないようだ。
「う、うん」
萌乃の不可解な反応に若干焦りつつ、相槌を打つと、彼女は、またもや暗い顔になる。
「えっ? ちょっと。どうしたのよ? さっきから」
「……私には、無理なんです」
萌乃は俯くと、膝の上で拳を握り、悔しそうに声を振るわせた。
「私は、白谷さんのように出来ません。せっかく教えて頂いているのに……」
なるほど。どうやら、萌乃は仕事の壁にぶち当たっているようだ。比べる相手が『社内イチの爽やかイケメン』と、女子社員の間で名高い白谷吟とは。
まぁ、自身の教育係なのだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、白谷吟は、ただの爽やかイケメンではない。頭の回転が速く、仕事が早くて丁寧と、こちらも社内外から一目置かれている存在である。
そんな、『顔良し頭良し性格良し』の三拍子揃ったパーフェクトヒューマンと自身を比べるとは、実は萌乃は先程の発言とは裏腹に、仕事に対して意識高い系女子なのだろうか。
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「萌ちゃんはさ、まだ配属が決まったばかりで、聞いたことがないかもしれないけど、白谷先輩は、うちの会社のエースって周りに言われている人なんだよね。だから、そんな凄い人と同じようにはいかないよ。だって、まだ仕事を始めたばかりじゃない」
「それは、そうかも知れないですけど、むしろ、そんなに凄い期待をされている人に教えてもらっているのに、全然出来ないことが申し訳なくて」
「それは、誰に対して?」
「え?」
「誰に対して、申し訳ないの?」
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