56 / 155
行ってみっか(7)
しおりを挟む
そう言った理沙は私の隣に立つ白谷吟へチラッと視線を向けると、驚いたように目を瞬かせる。それから、もう一度私をじっと見つめてきた。その瞳には敵意にも似た対抗心が宿っているように見える。
理沙の視線に一瞬戸惑ったが、すぐにピンときた。
(あぁ。そういうことね)
隣に立つ白谷吟へチラリと視線を移す。彼は、相変わらずの絵に描いたようなイケメンスマイルを理沙に向け、ペコリと頭を下げていた。そんな白谷吟に理沙は極限まで頬の筋肉を緩めている。
理沙は、私がこのイケメンと結婚すると思ったのだろう。イケメン好きの理沙の嫉妬心に火が着いてしまったわけか。
私は苦笑いを浮かべる。そして、誤解を解くために口を開いた。
「いやいや、……違うから」
私の言葉を聞いても、まだ信じられないのか、理沙は疑い深い眼差しで私を見ながら、白谷吟へと一歩近付いた。彼は不思議そうな表情で首を傾げる。
理沙が白谷吟へ向かって口を開きかけたその時、視界にシロ先輩の姿が映った。シロ先輩は、受付カウンターの前に立つ女性社員と話をしていた。どうやら、先方が手配してくれた案内役のようだ。シロ先輩は、その女性社員と会話を交わしながら、こちらへ歩いて来た。
「お待たせ」
シロ先輩が爽やかな笑顔を見せる。理沙は、シロ先輩の顔をまじまじと見たあと、再び私の顔を見た。それから、ゆっくりと微笑む。理沙から敵対心が消えたのを感じた。
「もしかして、明日花のお相手はあちらだった?」
理沙は悪戯っぽく笑う。その勝ち誇ったような顔がなんとも憎たらしい。
私は肩をすくめる。それから、シロ先輩に視線を向けた。白谷吟ほどのイケメンではないが、シロ先輩だってそれなりだ。理沙の態度に私は何故だか苛立ちをおぼえた。
私はため息をつく。この感情が何なのか分からない。ただ、あまり良い気分ではないことは確かだ。私は、自分の胸の奥に生まれたモヤッとした気持ちを誤魔化すかのように、理沙に向かって笑顔を作った。
「ハズレ。どっちも違うから」
私の答えに、理沙はキョトンとする。理沙の恋人らしき男性は、私と目が合うと気まずそうに頭を掻いてから、理沙の腕を引いた。打ち合わせに遅れると恋人に促された理沙は、渋々その場を後にした。
「何だ? 知り合いか?」
理沙たちの背中を見ながら、シロ先輩が尋ねてくる。私は、苦笑いを浮かべながら答えた。
「例の、結婚を控えた友人です」
それだけでシロ先輩は察してくれたようだった。
理沙の視線に一瞬戸惑ったが、すぐにピンときた。
(あぁ。そういうことね)
隣に立つ白谷吟へチラリと視線を移す。彼は、相変わらずの絵に描いたようなイケメンスマイルを理沙に向け、ペコリと頭を下げていた。そんな白谷吟に理沙は極限まで頬の筋肉を緩めている。
理沙は、私がこのイケメンと結婚すると思ったのだろう。イケメン好きの理沙の嫉妬心に火が着いてしまったわけか。
私は苦笑いを浮かべる。そして、誤解を解くために口を開いた。
「いやいや、……違うから」
私の言葉を聞いても、まだ信じられないのか、理沙は疑い深い眼差しで私を見ながら、白谷吟へと一歩近付いた。彼は不思議そうな表情で首を傾げる。
理沙が白谷吟へ向かって口を開きかけたその時、視界にシロ先輩の姿が映った。シロ先輩は、受付カウンターの前に立つ女性社員と話をしていた。どうやら、先方が手配してくれた案内役のようだ。シロ先輩は、その女性社員と会話を交わしながら、こちらへ歩いて来た。
「お待たせ」
シロ先輩が爽やかな笑顔を見せる。理沙は、シロ先輩の顔をまじまじと見たあと、再び私の顔を見た。それから、ゆっくりと微笑む。理沙から敵対心が消えたのを感じた。
「もしかして、明日花のお相手はあちらだった?」
理沙は悪戯っぽく笑う。その勝ち誇ったような顔がなんとも憎たらしい。
私は肩をすくめる。それから、シロ先輩に視線を向けた。白谷吟ほどのイケメンではないが、シロ先輩だってそれなりだ。理沙の態度に私は何故だか苛立ちをおぼえた。
私はため息をつく。この感情が何なのか分からない。ただ、あまり良い気分ではないことは確かだ。私は、自分の胸の奥に生まれたモヤッとした気持ちを誤魔化すかのように、理沙に向かって笑顔を作った。
「ハズレ。どっちも違うから」
私の答えに、理沙はキョトンとする。理沙の恋人らしき男性は、私と目が合うと気まずそうに頭を掻いてから、理沙の腕を引いた。打ち合わせに遅れると恋人に促された理沙は、渋々その場を後にした。
「何だ? 知り合いか?」
理沙たちの背中を見ながら、シロ先輩が尋ねてくる。私は、苦笑いを浮かべながら答えた。
「例の、結婚を控えた友人です」
それだけでシロ先輩は察してくれたようだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる