クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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行ってみっか(1)

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 桜もすっかり散ってしまった四月の下旬。

 週末は、以前招待状が届いていた同級生だった理沙の結婚式だ。会場は、都内某所の高級ホテル。料理が美味しいと評判のレストランがある。

 披露宴の食事メニューがどんなものなのか少し興味はあったが、迷った末に私は欠席の連絡をした。

 シロ先輩の言葉は、私の心を揺さぶった。これまで私は、会話の合わなくなった旧友たちとの繋がりをズルズルと続けていた。けれど、気持ちの下がる付き合いはストレスを抱えるだけで意味がないと思った。

 そうは言っても、事なかれ主義でもある私には、欠席と連絡を一つするのも、それなりに心に負荷を与えた。断ってしまってから、こういう形で連絡を絶ってしまっていいのだろうか。影で何か言われはしないかと、思い出しては胸が疼くこともある。

「はぁ~」

 今も、ついため息が漏れてしまう。

 そんな私の横で、シロ先輩がスマホ片手に電話をしている。

「もしもし。はい。今から戻ります。タクシーに乗るので、十分もあれば着くと思います。はい? ああ、それは大丈夫でした。はい。それでは」

通話を切ったシロ先輩は、私の方を向くと、「行くぞ」と言って歩き出す。

「あ、はい」

 私も返事をして、すぐにシロ先輩の後を追った。

「課長ですか?」
「ああ」

 先ほどの電話でシロ先輩が話していたのは、どうやら上司のようだ。

「何か問題が?」
「ん?」
「なんだか深刻そうな口ぶりだったので」
「いや。たぶん大したことはない。けど、先方が突然顔を見せたらしい。だから、間に合うようなら俺にも同席してほしいって」

 私たちは、今月から始まった新プロジェクトのメンバーに選ばれた。

「えっと……それって、私も同席すべきですか?」
「いや、必要ないだろ」
「なら、いいですが……」

 私は、ホッとして表情を緩める。

 タクシー乗り場に向かう道すがらも、シロ先輩は電話をしていた。眉根を寄せたり、首を傾げながら話をしている。このところ先輩はいつも忙しそうだ。そんな先輩の後ろを、私は黙って歩く。

 シロ先輩の電話が終わりそうにないので、私がタクシーの運転手に合図をして、ドアを開けてもらう。車に乗り込んだところで、ようやくシロ先輩の電話が終わった。行き先を告げると、車はゆっくりと動き出した。

 車窓を流れる景色を見ながら、私はまた胸の内に広がってきた後悔という靄を吐き出すように深い溜息をつく。

 やっぱり、面と向かってお祝いの言葉を伝えた方が良かっただろうか。
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