48 / 155
卒業すんなよ(7)
しおりを挟む
そんなシロ先輩に苦笑いを浮かべつつ、私は、首を横に振る。
「いえ、たぶん知らないです」
「も~、なんだよ。知らないのかよ。じゃあ、なんでそんな反応するんだよ」
私の反応に先輩は恨めしそうな視線を向けてきた。そんな先輩のむくれ顔がなんだか可愛くてクスリと笑ってしまう。
「すみません。でも、前に白谷先輩に聞いた言葉に似ていたので」
「吟? あいつがどんな事言ってたんだ?」
「あ~、いえ。白谷先輩がって言うよりも、シロ先輩が言っていたことを、この前の親睦会の時に、白谷先輩から聞いたんですけど……」
「あいつ、何言ったんだ。ちくしょう」
シロ先輩は、私の言葉に急に落ち着きを失くす。髪をクシャリと掴むと、そのまま、視線を右へ左へ忙しなく動かし始めた。
そんな先輩の挙動が可笑しくて、つい吹き出しそうになるが、それをなんとか堪えると、笑い声を含んだ声のまま、私はシロ先輩を宥める。
「大丈夫ですよ。そんな変なことじゃありませんから」
「そうか? 吟のやつ、碌なこと言わないからな」
「ふふ。白谷先輩の事をそんな風に言うのは、シロ先輩だけですよ。会社での白谷先輩の評価は、バツグンじゃないですか?」
「まぁ、そうだが……。で、何を言われたんだ?」
嫌そうに顔を歪めつつ真相を確認してくるシロ先輩だったけど、本当は、白谷先輩のことを口で言うほどには悪く思っていないことを、私は知っている。
「シロ先輩と白谷先輩って、幼馴染らしいですね」
「ん? ああ、まぁな」
「白谷先輩は昔、シロ先輩からある言葉を言われて、それが凄く印象深かったみたいですよ」
「ある言葉?」
私の勿体つけた物言いに、シロ先輩は首を傾げた。
「『無理しても、それは本当の吟じゃないよ』って。シロ先輩は、当時の白谷先輩の背中を押したらしいですよ。覚えてますか?」
「ん~? 俺が? 言ったか? そんな事」
「え~! 覚えてないんですか?」
シロ先輩の反応の悪さに、私は思わずむくれる。
「まぁ、覚えてないなら仕方ないですけど……。先輩がさっき、私に言ってくれた言葉と、昔、白谷先輩の背中を押したという言葉が似ていたから、思わず反応しちゃいました」
私の答えを聞いても、シロ先輩は腑に落ちないという顔をしている。
「きっと、シロ先輩にとってこの言葉は大切な言葉なんだろうと思ったんです。そんな大切な言葉で、私の背中も押してくれたんだなと思ったら、つい嬉しくなって……」
そこまで言うと、窓の外へと視線を向ける。
「いえ、たぶん知らないです」
「も~、なんだよ。知らないのかよ。じゃあ、なんでそんな反応するんだよ」
私の反応に先輩は恨めしそうな視線を向けてきた。そんな先輩のむくれ顔がなんだか可愛くてクスリと笑ってしまう。
「すみません。でも、前に白谷先輩に聞いた言葉に似ていたので」
「吟? あいつがどんな事言ってたんだ?」
「あ~、いえ。白谷先輩がって言うよりも、シロ先輩が言っていたことを、この前の親睦会の時に、白谷先輩から聞いたんですけど……」
「あいつ、何言ったんだ。ちくしょう」
シロ先輩は、私の言葉に急に落ち着きを失くす。髪をクシャリと掴むと、そのまま、視線を右へ左へ忙しなく動かし始めた。
そんな先輩の挙動が可笑しくて、つい吹き出しそうになるが、それをなんとか堪えると、笑い声を含んだ声のまま、私はシロ先輩を宥める。
「大丈夫ですよ。そんな変なことじゃありませんから」
「そうか? 吟のやつ、碌なこと言わないからな」
「ふふ。白谷先輩の事をそんな風に言うのは、シロ先輩だけですよ。会社での白谷先輩の評価は、バツグンじゃないですか?」
「まぁ、そうだが……。で、何を言われたんだ?」
嫌そうに顔を歪めつつ真相を確認してくるシロ先輩だったけど、本当は、白谷先輩のことを口で言うほどには悪く思っていないことを、私は知っている。
「シロ先輩と白谷先輩って、幼馴染らしいですね」
「ん? ああ、まぁな」
「白谷先輩は昔、シロ先輩からある言葉を言われて、それが凄く印象深かったみたいですよ」
「ある言葉?」
私の勿体つけた物言いに、シロ先輩は首を傾げた。
「『無理しても、それは本当の吟じゃないよ』って。シロ先輩は、当時の白谷先輩の背中を押したらしいですよ。覚えてますか?」
「ん~? 俺が? 言ったか? そんな事」
「え~! 覚えてないんですか?」
シロ先輩の反応の悪さに、私は思わずむくれる。
「まぁ、覚えてないなら仕方ないですけど……。先輩がさっき、私に言ってくれた言葉と、昔、白谷先輩の背中を押したという言葉が似ていたから、思わず反応しちゃいました」
私の答えを聞いても、シロ先輩は腑に落ちないという顔をしている。
「きっと、シロ先輩にとってこの言葉は大切な言葉なんだろうと思ったんです。そんな大切な言葉で、私の背中も押してくれたんだなと思ったら、つい嬉しくなって……」
そこまで言うと、窓の外へと視線を向ける。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる