クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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卒業すんなよ(6)

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「分かってるよ。ただの話の流れだ。気にするな。それに俺は、お前が友人との付き合いを無理しているように思ったから、付き合いを辞めろって言っただけで、それすらも、お前が苦に感じるなら、お前が生きやすいように立ち回ればいいだけの事だ」
「……先輩」
「でも、これだけは覚えておけ」

 シロ先輩は真剣な眼差しを私へと向ける。

「無理して誰かと繋がっても、それは本当の縁じゃないと、俺は思うぞ」
「え?」
「人との繋がりにはそれぞれ意味があると俺は思ってる。だから、自然と長く続く付き合いには、それなりの意味があるんだろうし、繋がることに疑問や苦痛があるなら、その人との縁は、自分にとって、もう必要ないんだと思う」
「必要ないって……そんな、身も蓋もない」

 私は、シロ先輩の言葉に、寂しさを感じた。でも、それをうまく伝えられず、笑って誤魔化す。しかし、シロ先輩の視線は、そんな私に余計に突き刺さってきた。

「でも、現にそうだろ? お前が悩んでいる学生の頃の繋がりは、学生の時にはお前に必要だったかもしれないけど、社会人のお前は、その繋がりを必要としていないじゃないか」
「まぁ、それはそうなんですけど……」

 シロ先輩のまっすぐな視線から逃れるように、私は視線を泳がす。オープン席では、女子高生たちが相変わらず楽しそうに、幾分大きな声で談笑を続けていた。

 シロ先輩の言う通り、学生の頃の繋がりは、私にはもう必要ないのだろう。だって、どんなに思い描いてみても、視線の先にいる彼女たちのように、心の底から笑える気がしないのだから。自分と友人の間に、距離を、壁を感じてしまうのだから。

 そんな離れた繋がりよりも、今、私を心の底から笑わせてくれる繋がりを私は知っている。

 女子高生から、目の前のシロ先輩へと視線を戻すと、それを待っていたかのように、シロ先輩は再び口を開いた。

「無理して合わせているその付き合いの中に、本当のお前はいないんだ。だから、そのグループで例え陰口を言われたとしても、それは、本当のお前のことを知らない奴らが適当に言ってるだけの事だ。そんなの、全然気にすることじゃない!」
「それって……!」

 大真面目な顔で私に語り掛けるシロ先輩の言葉に、私が目を見張ると、先輩は私の反応に嬉しそうに目を細めた。

「おっ! その反応。もしかして、クロも知ってるのか? このセリフ! 俺、好きだったんだよな、あのマンガ」

 シロ先輩は、目を瞑り、大袈裟に悶絶した。
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