クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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二日酔いジェラシー(9)

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「は? 嘘って何だよ?」

 シロ先輩は目を丸くして聞いてくる。私は笑いを堪えて答えた。

「用事があるっていうの、嘘です。ただシロ先輩に会いたくなかっただけです」

 私は立ち止まって、シロ先輩の方を見る。シロ先輩も足を止めた。しばらく見つめ合う形になると、シロ先輩は気まずげに視線を逸らし、小さく呟いた。

「やっぱりまだ怒ってるのか……?」

 私は吹き出しそうになるのを必死に耐えた。ここで笑ったらまた怒らせてしまいそうだと思ったからだ。

 私はわざとらしく怒ったような口調で言う。

「もうっ! ほんとですよ! あんな面倒くさい思いは二度とごめんです!」

 シロ先輩は困ったように頭を掻く。

「悪かったって。今度、飯奢るから」

 私はそれを聞いて、少し考えるそぶりをする。

「うーん……まぁ、奢ってくれるって言うなら、遠慮なくご馳走になります。……本当はもう許してますけど」

 ニヤッと笑いながらそう返すと、シロ先輩は苦笑いを見せたあと、嬉しそうに「おう」と言った。

 二人並んで歩き出す。さっきまで重たかった心はいつの間にかすっきりしていて、とても晴れやかな気持ちだった。もうストレス発散に面倒な料理もしなくていい。今日のうちにシロ先輩と仲直りできて良かった。来週にしこりを持ち越さずに済む。

 月曜日の予定を頭に浮かべつつ、隣にいるシロ先輩を見上げると、耳が寒さのせいか赤くなっていた。

 私は自分のマフラーを外すと、それをシロ先輩に差し出した。シロ先輩は訳がわからないという顔で驚いている。

「嘘ついたお詫びに、それ、貸してあげます」

 私が照れ隠しでぶっきらぼうに言うと、シロ先輩は一瞬固まった後、首を振った。

「でも先輩、耳真っ赤ですよ。寒いんじゃないですか? 風邪とかひかれたら困るんで。仕事」

 私がシロ先輩の耳に視線を向けると、彼はバッと手で耳を押さえた。

「……おう」

 そう言ってシロ先輩は私の手からマフラーを受け取ると、首に巻いて口元まで覆ってしまった。

 恥ずかしかったのだろうか。

 そう思うと、なんだか可笑しくて思わず笑ってしまう。すると、シロ先輩は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

 それから私たちは一言も喋らず、駅までの道を歩いた。駅に着くと、シロ先輩はこちらを振り向いて言った。

「じゃあ、帰るな」
「はい。今日は来てくれてありがとうございました」

 ペコリと頭を下げる。改札を通りホームへ向かうシロ先輩の後姿が見えなくなるまで見送って、私は一人家路についた。
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