クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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それって、まさかお見合い!?(13)

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 それから、やっと言葉の意味を理解すると、慌てて首を振る。由香里は、つまらなさそうな顔をして身体を戻した。

 私は、そんな彼女を見ながら、少しだけ眉を顰める。

「白谷先輩とは何もないけど、何でここで白谷先輩の名前が出てくるの?」

 そう尋ねると、由香里がにっこりと笑った。

「だって、矢城と白谷さんって、今、社内で有名だよ」

 由香里がそう言った瞬間、私の心臓がどくんっと大きく鳴る。一瞬息が止まったような気がした。私は、動揺しながらも平静を装って口を開く。

「ゆ、有名ってどういうこと?」

 声が少し震えてしまったかもしれない。由香里は、そんな私を気にすることなく話を続けた。

「昨日、二人で食堂にいたでしょう? 私もちょうど食堂にいて、二人のこと見かけたんだ。二人が一緒に歩いてるところを見たって人もいてね。ほら、白谷さんって人気があるじゃない。これまで見かけたことのないツーショットだし、二人の間に何かあったんじゃないかって女子社員の間で噂になってるのよ」
「ああ、昨日の……」

 私は、ぎこちなく相槌を打つ。まさか、由香里に見られていたなんて思ってもいなかった。

 確かに、昨日、私は白谷先輩と一緒にお昼を食べた。それは事実だ。だけど、あれは別に特別なことでも何でもなかった。ただお昼ご飯を一緒に食べただけなのだ。

 それなのに、まさか社内で噂に上がるほど注目されていたとは思わなかった。そこで、私はハッとなる。まさか、その噂がシロ先輩の耳に入ったりしないだろうか。昨日のシロ先輩は正直面倒臭かった。やっと誤解が解けたのに、そんな噂が耳に入って、また不機嫌になってしまったら……。

 そんなことを考えてハラハラとする私を、由香里は、じっと見つめてきた。私は、そんな彼女に気がついて、ぎこちない笑みを浮かべる。

「何もないよ」

 でも、由香里は納得していないようだった。

「本当に? 結構仲良さそうに見えたけど? 実は付き合ってるとかじゃないよね?」

 疑うように私を見つめてくる。私は、そんな彼女に苦笑いを浮かべるしかなかった。

「ないない。本当になにもない。昨日は、たまたま一緒になっただけ」
「ふーん。じゃあさ、経理課の先輩にそうやって伝えちゃうけどいい? 実は、先輩、白谷さんのこと狙ってるっぽいんだよね」
「えっ!? そうなの?」

 由香里の言葉に、思わず大きな声を出してしまう。自身には関係のない話でも、ついテンションが上がってしまうのが恋バナというものだ。
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