クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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それって、まさかお見合い!?(9)

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 由香里は、残念そうに顔を顰めた。

「たまには、こっちの話聞いてくれた人もいたよ。でもなんか定型会話っぽいの。全然話広がらない。もうつまらなくなってさ、途中で帰ってきたわ……」

 私は、彼女の話を聞きながら、黙々と食べ進めていた麻婆豆腐を咀しゃくする。由香里はまた一つため息を漏らした。

「どうして私には良い人が見つからないのかな……」

 そう呟いて、肩を落とす由香里。私は何と声をかけていいのかわからなかった。ただ、何か言わなければと思い、とりあえず思いついたことを口に出す。

「別に焦ることないんじゃない? まだ始めたばかりなんでしょ?」
「うん。まぁね。でも期限は半年って決めてるの。それで成果がなければやめようかなと考え中。他にアプリとか婚活サイトもやってるけど、今のところ成果なしだし」

 由香里はそう言うと、手に持っていた蓮華をパクリと口にした。私は彼女の言葉を聞きながら、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「寺田がそんなに彼氏欲しいと思ってるとは知らなかったよ。……ねえ。寺田は、どんな人がいいの?」

 由香里が顔を上げる。

「え? 私、彼氏は別にいらないよ」

 由香里の思いもよらない返答に思わず声が大きくなる。

「は? じゃあ、なんで婚活なんてしてるのよ?」
「結婚はしたいからだよ。だから相手を探すんでしょう?」

 由香里は当然のように答える。

「ごめん。よく意味が分からないんだけど」

 由香里の答えに私は首を傾げる。由香里は少し考えるそぶりを見せてから、慎重に口を開いた。

「もちろん、結婚が全てではないと思う。事実婚とかパートナーとか今は色々言い方があるし。別にそれでもいいんだけど、なんか事実婚とかって、結婚よりも関係が緩そうじゃない? いつでも解消できそうっていうか。私としては、ちゃんと夫婦になって家族になりたいわけ。それに、結婚してしまえば、とりあえず周りの目を気にしなくて良くなるでしょ」

 確かに婚姻届を出すだけが結婚だとは思わないけれど、結婚したという事実は、やはり安心感がある。それに、結婚という形をとる方が、世間体も良い。

 由香里の言葉に、先程の母との会話をを思い出す。確かに母は私の結婚を気にしていた。私は小さくうなずいた。

「まあ、それは分かるかな。でも、じゃあなんで彼氏はいらないのよ。結婚するなら、まず相手がいないと始まらないでしょう?」

 私がそう問うと、由香里は蓮華を置いた。そして、困ったように眉を下げて笑う。
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