クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
33 / 155

それって、まさかお見合い!?(6)

しおりを挟む
「今朝、焼いたの。よかったら食べて。余ったら明日のおやつにでもすればいいわ」

 母の手作りお菓子。久しぶりだ。ありがとうと言うと、母は安堵したように頬を緩めた。

 玄関で靴を履き終えると、見送りに来てくれた母に顔を向けた。

「あのさ、あの話なんだけど」

 母の顔に少しだけ緊張が走ったのがわかった。私は母の様子を窺いながら、言葉を続ける。

「お父さんも知ってるの?」

 母は一瞬きょとんとした顔をしたが、次の瞬間にはいつも通りの表情に戻っていた。

「まだよ。ちゃんとあんたに確認しないとと思ってね。それに、こういうことは当人同士の気持ちが一番大事だと思うから。まぁ、あんたがどうしても嫌なら仕方ないけどね」

 母の言葉に私は少し顔を顰めて見せる。

「……そう。じゃ、あの話は進めないで。私、そんなつもりないから。それから、お父さんには絶対言わないで。お父さんが知ったら、余計に面倒くさいことになると思うから」

 我が家の父は本当に面倒くさい。過保護というか心配性なのだ。きっと、私のお見合いなんて聞いたら大騒ぎするに違いない。

 相手を気に入れば勝手に話を進めそうだし、相手が気に入らなければ、自分で勝手に見繕ってくる可能性もある。

 それだけは避けたい。母もそれがわかっているから、父にはまだ何も言っていないのだろう。母が苦笑いを浮かべた。

「それはそうね。お父さんには言わないでおくわ。でもまぁ、あんたの気が変わったら言いなさいね」

 私は、そんなことはないと思うけれど、と心の中で付け足しながら、母に向かって軽く手を振って家を出た。

 外に出ると、雪がちらついていた。空を見上げる。灰色の空からは白いものが舞い落ちてくる。これくらいなら積もらないかと思っていると、スマホが鳴った。画面を見ると、由香里からだった。

 どうやら彼女の用事はあと一時間ほどで終わるらしい。メッセージを読み終わると、駅に着いたらまた連絡するとメッセージを送り、スマホをポケットに入れる。

 駅までの道のりは徒歩二十分ほどかかる。空から降り注ぐ雪を見ながら、私はゆっくりと歩き始めた。

 突然の由香里からの誘い。何かあったのだろうか。仕事でミスでもしたのか、それともプライベートでトラブルでもあったのか。

 色々と考えながら歩いているうちに、駅前の広場に到着した。時計を見ると、針は十二時十五分を指していた。由香里との合流は一時になりそうだ。お腹がグゥッと鳴る。どこへランチに行こうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...