32 / 155
それって、まさかお見合い!?(5)
しおりを挟む
結婚か。私はぼんやりと考えた。
高校を卒業してから、理沙とはほとんど会う機会はなかった。たまに連絡がきていたが、それも二年に一回程度だ。最後に会ったのは、確か三年程前。就職が決まった時に、みんなで集まって飲んだ時のはず。
懐かしいなとは思ったが、それ以上の気持ちは湧き上がらない。むしろ、面倒な物が届いたなとすら思ってしまう。
理沙とはこのまま連絡を取らず、自然と繋がりが切れるのだろうと思っていたから。正直、気が重い。
ふと、窓の外に目をやると、どんよりとした雪雲が空を覆っていた。まるで今の自分の心の中みたいだなと思いながら、再び手の中の封書を見る。
「……どうしようかな」
ぽつりと呟く。
本当にどうしたらいいのかわからない。とりあえず、返事は保留にしておくか。
私は招待状を鞄に押し込んだ。
鬱々とした気分でマグカップに口をつける。すっかり冷めてしまったお茶が喉をスッと冷やした。その冷たさにキュッと体を縮めた、その時だった。
スマホが鳴った。画面を見ると、そこには珍しい人からの短いメッセージが表示されていた。
“突然だけど、今日、ランチでもどお?”
メッセージの送り主は寺田由香里。会社の同期の中で一番親しくしている子だ。親しくと言っても、経理課に所属する彼女とは、部署が違うこともあってなかなか会う事はない。だが、彼女は時折ふと思い出したように私に連絡をしてくる。
明るくてサバサバしており、女子特有の気を遣った付き合いをしなくて良い。そんな距離感が私にはちょうど良い。彼女と話をするのは気が楽だった。だから、彼女からの誘いには、なるべく応えるようにしていた。
私はすぐに返信をする。
“いいよ。ちょうど暇してたところ。でも、今、実家だから、ちょっと遅めのランチでもいい?”
送信ボタンを押すと、すぐに既読マークがついた。そして、そのすぐ後に、「OK!」と可愛いキャラクターのスタンプが送られてくる。その様子に思わず笑みが零れた。
相変わらず、テンションが高そうだ。そう思いながら、マグカップの中身を飲み干すと、私は荷物を手にした。
「あら? もう帰るの?」
私の動きに気がついた母がキッチンから出て来た。私は立ち止まらずに答える。
「うん。友達と約束があるから」
「そう……。あ、これ持っていって」
母はそう言って、小さな紙袋を差し出してきた。受け取ると、微かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「何?」
私が尋ねると、母は微笑んで答えた。
高校を卒業してから、理沙とはほとんど会う機会はなかった。たまに連絡がきていたが、それも二年に一回程度だ。最後に会ったのは、確か三年程前。就職が決まった時に、みんなで集まって飲んだ時のはず。
懐かしいなとは思ったが、それ以上の気持ちは湧き上がらない。むしろ、面倒な物が届いたなとすら思ってしまう。
理沙とはこのまま連絡を取らず、自然と繋がりが切れるのだろうと思っていたから。正直、気が重い。
ふと、窓の外に目をやると、どんよりとした雪雲が空を覆っていた。まるで今の自分の心の中みたいだなと思いながら、再び手の中の封書を見る。
「……どうしようかな」
ぽつりと呟く。
本当にどうしたらいいのかわからない。とりあえず、返事は保留にしておくか。
私は招待状を鞄に押し込んだ。
鬱々とした気分でマグカップに口をつける。すっかり冷めてしまったお茶が喉をスッと冷やした。その冷たさにキュッと体を縮めた、その時だった。
スマホが鳴った。画面を見ると、そこには珍しい人からの短いメッセージが表示されていた。
“突然だけど、今日、ランチでもどお?”
メッセージの送り主は寺田由香里。会社の同期の中で一番親しくしている子だ。親しくと言っても、経理課に所属する彼女とは、部署が違うこともあってなかなか会う事はない。だが、彼女は時折ふと思い出したように私に連絡をしてくる。
明るくてサバサバしており、女子特有の気を遣った付き合いをしなくて良い。そんな距離感が私にはちょうど良い。彼女と話をするのは気が楽だった。だから、彼女からの誘いには、なるべく応えるようにしていた。
私はすぐに返信をする。
“いいよ。ちょうど暇してたところ。でも、今、実家だから、ちょっと遅めのランチでもいい?”
送信ボタンを押すと、すぐに既読マークがついた。そして、そのすぐ後に、「OK!」と可愛いキャラクターのスタンプが送られてくる。その様子に思わず笑みが零れた。
相変わらず、テンションが高そうだ。そう思いながら、マグカップの中身を飲み干すと、私は荷物を手にした。
「あら? もう帰るの?」
私の動きに気がついた母がキッチンから出て来た。私は立ち止まらずに答える。
「うん。友達と約束があるから」
「そう……。あ、これ持っていって」
母はそう言って、小さな紙袋を差し出してきた。受け取ると、微かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「何?」
私が尋ねると、母は微笑んで答えた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です

拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる