クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
25 / 155

二日酔いジェラシー(7)

しおりを挟む
「ならいいが。あまり無理をするなよ。それでなくてもお前には色々と負担をかけてしまっているからな」
「いえ、ありがとうございます」

 シロ先輩がぺこりと頭を下げると、課長は軽く頷いて去って行った。他者に声をかけられて冷静になったのか、シロ先輩はチラリとこちらを見だだけで何も言わなくなった。

 その後シロ先輩は何事もなかったかのように仕事を再開した。私もそれに習って仕事に戻る。

 そして結局、シロ先輩の不機嫌の原因がよく分からないまま仕事は終わってしまった。

 仕事帰りに、スーパーに寄って食材を買う。今日のメニューは豚肉の生姜焼きにするつもりだ。なんだか気持ちがモヤモヤとする日は、自炊をしてストレスを発散しようと決めている。

 材料を次々と買い物かごに入れる。豚肉をどれにしようかと悩んでいると、スマホが短く鳴った。確認すると、シロ先輩からメッセージがきていた。

“今から会えないか?”

 買い物の後は特に予定もない。だが、今日は自炊をすると決めている。それに、シロ先輩とは気まずいまま会社を出てきてしまったので、会いづらい。しばらく迷った末に私は、返事を返した。

“すみません。このあと用事があるので。明日ではダメですか?”

 送信ボタンを押してから、少し後悔した。断るための嘘にしては、少々ストレート過ぎたかもしれない。

 シロ先輩からの返信はすぐに来た。

“そうか。まぁ、大した用事でもないから。また、明日”

 そんな淡白な文面に私は違和感を感じた。どうしたものかと考える。

 正直、まだシロ先輩との気まずさを引きずっていて、彼と面と向かって話したい気分ではなかった。けれど、彼は普段用事もないのに連絡はしてこない。大したことではないと言っているが、それなりに重大な要件なのではないだろうか。

 少しだけ考えて、私は返信の文字を打つ。

“すみません。シロ先輩が連絡をくれるということは急ぎの用事ですよね? 会社へ戻れば良いですか?”

  気になるものは仕方がない。私はシロ先輩に会うことに決めた。シロ先輩からはすぐに返信がきた。

“予定があるんじゃないのか?”

 本当は無いので、別に問題は無い。安直に返信してしまったことを若干後悔しつつ、文字を打ち込む。

“予定変更したので大丈夫です”

 そう送ると、すぐに既読がついた。

“じゃ、待ってる。◯◯駅を出たところにある喫茶店で”

 返ってきた文字に目を見張る。どうやらシロ先輩は、私の家の最寄り駅まで来ているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...