クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
17 / 155

シロヤギさんからの手紙(7)

しおりを挟む
「昔ね、みんなの中に埋もれてしまうことが嫌で、無理やり自分を大きく見せていた時があったんだ。そんな時、言われた言葉があってね。それで、肩の力が抜けたんだ」
「それは……どんな言葉だったんですか?」

 白谷吟は、絶対的な信頼を含んだ眼差しを、シロ先輩に向けつつ、静かにその言葉を口にする。

『無理しても、それは本当の吟じゃないよ』

「それって……!」
「昔、流行っていた漫画のセリフ。それを史郎は、大真面目な顔で僕に言ったんだ」

 ふふっと笑う白谷吟の言葉は、私の耳には入って来なかった。

「私も、その言葉を……知っています」

 ぼんやりと呟いた私に、白谷吟は、おかしそうに口元を緩める。

矢城やぎさんも、史郎に、同じことを言われたのかい?」
「……いえ……、私は、その言葉を私にくれた友人が、誰なのかを知りません」
「どう言うこと?」

 私の言葉に、不思議そうに白谷吟は首を傾げた。

 その言葉をもらうまでの私は、八木少年と同じように、人見知りが激しくて、人となかなかうまく話せない子供だった。

 自分の気持ちを話せるのは、お気に入りのぬいぐるみだけ。特にお気に入りだったのが、ヤギが郵便配達員に扮した人形だったのだが、何故それがお気に入りだったのかは、覚えていない。けれど、それを「シロヤギさん」と呼び、片時も手放さず、どこへ行くにも常に持ち歩いていたことは覚えている。

 そんなお気に入りのシロヤギさんを、一度だけ紛失したことがあった。

 近所にある神社で行われた夏祭りに、両親と出かけた帰り道。いつものように肩から下げていたポシェットに、シロヤギさんが入っていないことに気がついた。

 ポシェットのファスナー部分から顔を出すように入れていたシロヤギさんを、どこかに落としてしまったようだった。

 泣きじゃくる私に、両親は、また別の物を買ってくれると言ったけれど、どうしても、シロヤギさんでなくては嫌だった私は、翌日、一人で、神社の周辺や境内の中を探し歩いた。

 いつものひっそりとした境内と違い、多くの人が訪れたからか、あちらこちらに、祭の名残が見受けられ、それらを片付ける大人が何人もいた。

 その大人たちに声をかけていれば、早く見つかったかも知れないが、私には、それが出来なかった。

 一人で、神社の周りや、境内の中をうろつき、随分と長いこと探し回ったが見つからず、疲れ果てた私は、やはりもう見つからないのではないかと、ガックリとしつつ、ベンチに腰を下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...