16 / 155
シロヤギさんからの手紙(6)
しおりを挟む
『初恋』なんて淡い言葉は、傍若無人で粗雑なこの人には、全く似合わないなと思いながら、横を見れば、シロ先輩は完全に机に突っ伏して、涎の海を作っていた。
「シロ先輩の初恋……ミスマッチ過ぎて、逆に気になる」
真顔でボソリとつぶやいた私の言葉を、白谷吟は、しっかり拾う。
「僕は、史郎の初恋より、矢城さんの初恋の方が気になるよ」
「えっ?」
驚いて視線を戻せば、白谷吟は、飄々と酒を煽っており、実はこの人も相当に酔っているので、こんな事を軽々しく口にするのかしらと、不意に思ってしまう。
しかし、見るからに酒に飲まれてしまったシロ先輩と違い、一見そうは見えないところが、スマートで、やはり、爽やかと言う言葉が似合う人だなとも思う。
「矢城さんの初恋相手は、どんな人だったの?」
ニコニコと話題を振ってくる白谷吟に、しかし私は、顔の前で両手の人差し指をクロスさせ、バッテンを作った。
「教えませんよ~」
「あはは。そうか。残念。じゃあ、矢城さんは、小さい頃、どんな子供だった?」
残念と口にしながらも、特に食い下がる様子もなく、こちらを不快にさせない。それでいて、サラリと話題を換えて、会話を続ける白谷吟のスマートさは、なるほど、多くの女性が放っておかないわけだと、納得する。
「私の子供の頃ですか? 特に面白く無いですよ? 至って普通です。元気印が取り柄という訳では無いですが、それなりに元気で明るくて、クラス全員友達と言うわけでもないけれど、それなりにみんなと仲がいい、そんな子供でした」
至って普通。それは、私を表すのに、一番適している言葉だ。何かに秀でていることもなく、ただ、平坦に生きている。
だから、自分のことを聞かれると困ってしまう。
「友達も、白谷先輩とシロ先輩のような関係の人はいませんし、……所謂、広く浅い付き合いしかしていないので……」
話しているうちに、なんだか、自分は人生の上っ面だけを生きているような気がして、恥ずかしくなった。思わず、言葉が尻すぼみになり、俯いてしまう。
「僕もそうだよ」
そんな私に、先ほどまでの明るさを纏った言葉よりも、ワントーン抑えた口調で、白谷吟は、私に語りかけてきた。
「僕も、矢城さんと同じ。所謂、みんなの中の1人だった。だから、今、同級生達の記憶に残っているかどうかは分からないなぁ」
「白谷先輩がですか? 昔から、人気があるのかと……?」
白谷吟は、私の言葉に静かに首を振り、ニコリと微笑んだ。
「シロ先輩の初恋……ミスマッチ過ぎて、逆に気になる」
真顔でボソリとつぶやいた私の言葉を、白谷吟は、しっかり拾う。
「僕は、史郎の初恋より、矢城さんの初恋の方が気になるよ」
「えっ?」
驚いて視線を戻せば、白谷吟は、飄々と酒を煽っており、実はこの人も相当に酔っているので、こんな事を軽々しく口にするのかしらと、不意に思ってしまう。
しかし、見るからに酒に飲まれてしまったシロ先輩と違い、一見そうは見えないところが、スマートで、やはり、爽やかと言う言葉が似合う人だなとも思う。
「矢城さんの初恋相手は、どんな人だったの?」
ニコニコと話題を振ってくる白谷吟に、しかし私は、顔の前で両手の人差し指をクロスさせ、バッテンを作った。
「教えませんよ~」
「あはは。そうか。残念。じゃあ、矢城さんは、小さい頃、どんな子供だった?」
残念と口にしながらも、特に食い下がる様子もなく、こちらを不快にさせない。それでいて、サラリと話題を換えて、会話を続ける白谷吟のスマートさは、なるほど、多くの女性が放っておかないわけだと、納得する。
「私の子供の頃ですか? 特に面白く無いですよ? 至って普通です。元気印が取り柄という訳では無いですが、それなりに元気で明るくて、クラス全員友達と言うわけでもないけれど、それなりにみんなと仲がいい、そんな子供でした」
至って普通。それは、私を表すのに、一番適している言葉だ。何かに秀でていることもなく、ただ、平坦に生きている。
だから、自分のことを聞かれると困ってしまう。
「友達も、白谷先輩とシロ先輩のような関係の人はいませんし、……所謂、広く浅い付き合いしかしていないので……」
話しているうちに、なんだか、自分は人生の上っ面だけを生きているような気がして、恥ずかしくなった。思わず、言葉が尻すぼみになり、俯いてしまう。
「僕もそうだよ」
そんな私に、先ほどまでの明るさを纏った言葉よりも、ワントーン抑えた口調で、白谷吟は、私に語りかけてきた。
「僕も、矢城さんと同じ。所謂、みんなの中の1人だった。だから、今、同級生達の記憶に残っているかどうかは分からないなぁ」
「白谷先輩がですか? 昔から、人気があるのかと……?」
白谷吟は、私の言葉に静かに首を振り、ニコリと微笑んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる