クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロヤギさんからの手紙(5)

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「会社も……って、すごいですね。もう、それ、運命の赤い糸で繋がってるんじゃ無いですか?」

 私の稚拙な感想に、白谷吟は困ったように、眉尻を下げつつ微笑む。

「まぁ、悪縁、腐れ縁で繋がってる事は確かだね」
「シロ先輩って、子供の頃、どんな感じだったんですか?」

 私の隣で、完全に眠りの魔王に連れて行かれてしまったシロ先輩にチラリと視線を投げつつ、傍若無人な先輩の過去を勝手に詮索する。

 そんな不躾な私の言葉を、咎めるでもなく、白谷吟は、懐かしそうな、楽しそうな笑顔で追憶する様に、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「今は、こんな態度のデカい奴になっちゃったけどね。史郎は、昔は、身体が弱くて、あまり外に出て遊べなかったんだ。外でみんなと遊べないから、転校生の史郎は、なかなか、クラスの子たちと距離を縮められなくて、いつも教室でポツンと1人でいた。しかも、人見知りも激しかったみたいで、初めのうちは、隣に住んでた僕ですら、全然話してもらえなかったんだ」

 白谷吟がそこまで話した時、私は、堪らず手を挙げて、話を中断させた。

「あの、すみません。……全然想像ができないのですが、本当に、シロ先輩の話ですか?」

 私の疑問に、白谷吟はニコリと微笑み大きく肯く。

「うん。間違いなく史郎の話だよ。しばらくして、ようやく僕とは話したり、家の中で遊んだりする様にはなったけど、家の外に出ると、僕の後ろに隠れてばかりいるような子どもだった」

 白谷少年の後ろに、オドオドとして隠れる八木少年を想像して、私は、ぷっと吹き出す。その仕草は、何ともかわいいが、やはり、今のシロ先輩とは、全く結びつかなかった。

「シロ先輩とは、全然結び付かないですが……想像するとかわいいです」
「うん。かわいかったよ。僕の服の裾を、いつもギュッと握ってて」

 白谷吟は、目を細めて、昔を懐かしんでいるように、シロ先輩を見やる。

「でも、それがどうして、こんな傍若無人な性格に……」

 思わず私がため息を吐くと、白谷吟は、ふふっと含み笑いをした。

「中学に上がる頃かな。どうやら、初恋の子から手紙を貰ったみたいなんだよね。どんな内容だったのかは分からないけれど、それから、史郎は、身体を鍛えるようになって、誰とでも話せるように、人見知りを克服しようと頑張ったのさ」
「うわ~、ベタですね。それでその初恋の子とは、どうなったんですか?」
「さあ? 僕の知る限りでは、面白い話はなかったと思うけど?」
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