クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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シロヤギさんからの手紙(1)

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 親睦会と称した例の飲み会は、開催の噂を耳にしてから数ヶ月後にようやく開催された。

「生ビール五つ、追加でお願いします」

 私は、通りすがりの店員に追加注文をして一息つく。ちょうどその時、殆ど空になりかけたジョッキを持って、私の隣にドスンと音がしそうな勢いで同じ一課の八木やぎ史郎しろうが腰を下ろした。

「クロ~、呑んでるか~?」
「まぁ、程々には。シロ先輩は、飲み過ぎでは?」
「俺は、まだまだいけるぞ~!」
「いえ、もうそろそろやめた方が……」

 面倒臭い人に絡まれたなと少し引き気味に対応していると、何処かで、私たちのやりとりを見ていたのか、二課に所属する白谷しろやぎんが声をかけてきた。

矢城やぎさん、ごめんね~。コイツ、酒癖悪くて。迷惑なら、退けるよ?」
「いえ。そんな事は……」
「にゃにお~。俺の何処が酒癖が悪いって言うんだ~!」

 ニコニコとしながらも、遠慮のない物言いで、シロ先輩を軽く蹴飛ばしながら、白谷吟は私の向かいの席に腰を下ろした。

「本当にコイツ、ウザくない? 大丈夫?」
「……正直、ウザいですね」

 そんな度重なる質問に、ついつい本音が出てしまう。私も、十分に酒が回っているようだ。

 会社の先輩をウザい呼ばわりしているのに、白谷吟は、咎めるでもなく、軽く笑い飛ばしてくれる。

「だよね~。ウザいよね~。この酔っ払いどうする?」
「まぁ、もうしばらくは、このままでいいです。手に負えなくなったら、白谷先輩にバトンタッチしますね」
「えぇ~。僕だってやだよ~」

 白谷吟は、本当に面倒臭そうに顔をしかめる。しかし、口ではそう言いながらも、いざと言う時は、必ず力になってくれるのがこの男だ。

「クロ~、お前は、この唐揚げを食え! 俺が許す! そして、俺には、あそこの海老フライを持ってこい!!」
「え~、嫌ですよ。シロ先輩、食べたいなら、自分で取ってきてください」
「ん。そうか!」
「史郎、僕の分も取ってきて~」
「分かった。俺に任せろ!」

 シロ先輩は、かなり酔っているのか、命令しておきながら、後輩に軽く遇らわれている事にも、友人に使いっ走りに使われている事にも気がつかず、席を立った。

「シロ先輩、気をつけてくださいよ~」

 私は、フラフラと危なっかしいシロ先輩の背中に声をかける。それを横目に、白谷吟はグイッと酒を煽った。友人の心配は、特にしていないようだ。

矢城やぎさんってさ~」
「はい?」

 白谷吟の呼びかけに、私は、軽く小首を傾げる。

「何でクロって呼ばれてるの?」
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