4 / 155
クロとシロ(4)
しおりを挟む
私は、彼の言葉を聞いて妙に納得してしまった。無理に肩肘を張ってキャパオーバーになってしまうよりも、力を抜いて仕事をする。それが結果に繋がる。私はシロ先輩のそういうところを見習っているし、信頼もしている。
それに、私がシロ先輩を信頼するように、いつからか先輩もまた、私を信頼してくれていると感じられるようになった。それが何よりも心地良くて、嬉しい。
「さぁて、間に合ったかなぁ」
私はスイーツ店の扉を押した。
***
「……あ、あれ?」
机の上に放り出されたままの書類を見て、私は思わず呟いた。
スイーツの入った箱を手に会社へ戻ってきたのだが、シロ先輩の席にその姿はなかった。首を傾げつつ、とりあえず手に持った箱をシロ先輩のデスクに置く。
「あれ? クロちゃん。帰ったんじゃなかったのか? シロなら、さっき出ていったぞ」
まだ仕事をしていた上司が、不思議そうに首を傾げる私に声をかけてきた。
「あ~、そうなんですね。シロ先輩、荷物置いたままですし、どこかで休憩ですかね?」
「まぁ、そんなところだろ。二課の白谷と連れ立ってたし」
「ああ、先輩の同期の」
「そう。あの爽やかイケメン」
「はぁ」
私は上司の含みのある言葉に適当に相槌を打って、その場を後にすることにした。
「あの、じゃあ、メモ残して私は帰ります。シロ先輩が戻ってきたら、一応伝えてもらえますか?」
「おう、わかったよ」
ひらりと手を振った上司に会釈をして、私はサラリとメモを書きつけるとオフィスを出た。
エレベーターに乗り込み、一階へ向かう。エントランスホールを抜けて外へ出ると、シロ先輩ともう一人男性がコンビニ袋を下げ、並んで歩いているのを見つけた。どうやら夕飯を買いに行っていたようだ。
「あ、シロ先輩! お疲れ様です!」
声をかけて駆け寄る。すると、シロ先輩は驚いた顔をした。
「クロ!? お前帰ったんじゃなかったのか!?」
「いえ、そうなんですけど……実は……シロ先輩が食べたがってた限定スイーツ、買えたので差し入れに戻ってきました!!」
「え!? マジか!? 」
「はい! デスクに置いてあるので後で食べてください!」
シロ先輩の顔がみるみると輝いていく。
「うわー!! クロ、まじサンキューな!!」
「ふふ、どういたしまして」
満面の笑みで感謝を告げるシロ先輩に、思わず笑みがこぼれる。
「史郎、よかったな」
隣にいた白谷も笑顔を浮かべて、シロ先輩に話しかける。
「おう!」
シロ先輩は嬉しそうに返事をした。
それに、私がシロ先輩を信頼するように、いつからか先輩もまた、私を信頼してくれていると感じられるようになった。それが何よりも心地良くて、嬉しい。
「さぁて、間に合ったかなぁ」
私はスイーツ店の扉を押した。
***
「……あ、あれ?」
机の上に放り出されたままの書類を見て、私は思わず呟いた。
スイーツの入った箱を手に会社へ戻ってきたのだが、シロ先輩の席にその姿はなかった。首を傾げつつ、とりあえず手に持った箱をシロ先輩のデスクに置く。
「あれ? クロちゃん。帰ったんじゃなかったのか? シロなら、さっき出ていったぞ」
まだ仕事をしていた上司が、不思議そうに首を傾げる私に声をかけてきた。
「あ~、そうなんですね。シロ先輩、荷物置いたままですし、どこかで休憩ですかね?」
「まぁ、そんなところだろ。二課の白谷と連れ立ってたし」
「ああ、先輩の同期の」
「そう。あの爽やかイケメン」
「はぁ」
私は上司の含みのある言葉に適当に相槌を打って、その場を後にすることにした。
「あの、じゃあ、メモ残して私は帰ります。シロ先輩が戻ってきたら、一応伝えてもらえますか?」
「おう、わかったよ」
ひらりと手を振った上司に会釈をして、私はサラリとメモを書きつけるとオフィスを出た。
エレベーターに乗り込み、一階へ向かう。エントランスホールを抜けて外へ出ると、シロ先輩ともう一人男性がコンビニ袋を下げ、並んで歩いているのを見つけた。どうやら夕飯を買いに行っていたようだ。
「あ、シロ先輩! お疲れ様です!」
声をかけて駆け寄る。すると、シロ先輩は驚いた顔をした。
「クロ!? お前帰ったんじゃなかったのか!?」
「いえ、そうなんですけど……実は……シロ先輩が食べたがってた限定スイーツ、買えたので差し入れに戻ってきました!!」
「え!? マジか!? 」
「はい! デスクに置いてあるので後で食べてください!」
シロ先輩の顔がみるみると輝いていく。
「うわー!! クロ、まじサンキューな!!」
「ふふ、どういたしまして」
満面の笑みで感謝を告げるシロ先輩に、思わず笑みがこぼれる。
「史郎、よかったな」
隣にいた白谷も笑顔を浮かべて、シロ先輩に話しかける。
「おう!」
シロ先輩は嬉しそうに返事をした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる