クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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クロとシロ(4)

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 私は、彼の言葉を聞いて妙に納得してしまった。無理に肩肘を張ってキャパオーバーになってしまうよりも、力を抜いて仕事をする。それが結果に繋がる。私はシロ先輩のそういうところを見習っているし、信頼もしている。

 それに、私がシロ先輩を信頼するように、いつからか先輩もまた、私を信頼してくれていると感じられるようになった。それが何よりも心地良くて、嬉しい。

「さぁて、間に合ったかなぁ」

 私はスイーツ店の扉を押した。

***

「……あ、あれ?」

 机の上に放り出されたままの書類を見て、私は思わず呟いた。

 スイーツの入った箱を手に会社へ戻ってきたのだが、シロ先輩の席にその姿はなかった。首を傾げつつ、とりあえず手に持った箱をシロ先輩のデスクに置く。

「あれ? クロちゃん。帰ったんじゃなかったのか? シロなら、さっき出ていったぞ」

 まだ仕事をしていた上司が、不思議そうに首を傾げる私に声をかけてきた。

「あ~、そうなんですね。シロ先輩、荷物置いたままですし、どこかで休憩ですかね?」
「まぁ、そんなところだろ。二課の白谷しろやと連れ立ってたし」
「ああ、先輩の同期の」
「そう。あの爽やかイケメン」
「はぁ」

 私は上司の含みのある言葉に適当に相槌を打って、その場を後にすることにした。

「あの、じゃあ、メモ残して私は帰ります。シロ先輩が戻ってきたら、一応伝えてもらえますか?」
「おう、わかったよ」

 ひらりと手を振った上司に会釈をして、私はサラリとメモを書きつけるとオフィスを出た。

 エレベーターに乗り込み、一階へ向かう。エントランスホールを抜けて外へ出ると、シロ先輩ともう一人男性がコンビニ袋を下げ、並んで歩いているのを見つけた。どうやら夕飯を買いに行っていたようだ。

「あ、シロ先輩! お疲れ様です!」

 声をかけて駆け寄る。すると、シロ先輩は驚いた顔をした。

「クロ!? お前帰ったんじゃなかったのか!?」
「いえ、そうなんですけど……実は……シロ先輩が食べたがってた限定スイーツ、買えたので差し入れに戻ってきました!!」
「え!? マジか!? 」
「はい! デスクに置いてあるので後で食べてください!」

 シロ先輩の顔がみるみると輝いていく。

「うわー!! クロ、まじサンキューな!!」
「ふふ、どういたしまして」

 満面の笑みで感謝を告げるシロ先輩に、思わず笑みがこぼれる。

「史郎、よかったな」

 隣にいた白谷も笑顔を浮かべて、シロ先輩に話しかける。

「おう!」

 シロ先輩は嬉しそうに返事をした。
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