1 / 155
クロとシロ(1)
しおりを挟む
社会人になって三年目。就職した当初は、社会に出て右も左も分からない状態で毎日が不安と緊張の連続だった、私、矢城明日花も今では仕事にも慣れてきて、それなりに企画営業という仕事をこなしている。ようやく自分なりにやりがいを感じられるようになってきた。
今日もコンビを組むシロ先輩こと、八木史郎と午前中に取引先を回り、一緒にランチを食べて午後からまた次の取引先へ……という予定になっていたのだけど――。
「ごめんなさいね。せっかく来てもらったのに、急用ができちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ! またの機会にプレゼンさせてください」
申し訳なさそうに謝るクライアントに向かって、シロ先輩は笑顔で首を横に振った。
取引先の会社を出て、駐車場まで戻る途中、シロ先輩のにこやかな笑顔はスッと消えた。
「……チッ」
小さく舌打ちをする音が聞こえた気がして横を見ると、シロ先輩は眉間にシワを寄せながら苛立たしげな表情をしていた。
(うわぁ……機嫌悪いなあ)
思わず苦笑する私を見て、シロ先輩はハッとしたように顔を逸らし「すまん」と小さく漏らした。バツが悪そうな顔をしながら頭を掻くので、私も顔を顰めて見せる。
「全然いいですよ。内心、私もチッて思いましたし! だって今日の予定、向こうの都合に合わせて無理やり空けたんですよ!」
わざと声のボリュームを上げて言うと、シロ先輩は困ったような顔になった。
「まぁ……仕方ないけどな。俺達の仕事は、クライアントの都合で振り回されることが多いから……」
「そうなんですけどねー。なんかなぁ……。よし! 先輩、気晴らしに甘い物でも食べて帰りましょ?」
私は努めて明るい声を出した。本当はすごく腹が立っていたけど、怒ったところでどうしようもないことは分かっている。それに、こんなにイライラした気持ちのままでは、どのみち仕事にならないと思っての提案だったのだが……。
「いや、急いで会社に戻ろう」
シロ先輩は私の提案を一蹴した。
「えっ!? なんでですか!?」
予想外の返答に驚く私に、シロ先輩は言った。
「もうすぐ会議の時間だろ。今日は参加出来ないって言ってきたけど、今ならまだ間に合う。ほら、行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってくださいよぉ~!!」
シロ先輩は私の返事を待たず、スタスタと歩き始めた。
仕事に関しては、案外真面目な人なんだよなと、仕方なくその後を追いかける。車に乗り込みエンジンをかけた時、ふと思い出したことがあった。
今日もコンビを組むシロ先輩こと、八木史郎と午前中に取引先を回り、一緒にランチを食べて午後からまた次の取引先へ……という予定になっていたのだけど――。
「ごめんなさいね。せっかく来てもらったのに、急用ができちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ! またの機会にプレゼンさせてください」
申し訳なさそうに謝るクライアントに向かって、シロ先輩は笑顔で首を横に振った。
取引先の会社を出て、駐車場まで戻る途中、シロ先輩のにこやかな笑顔はスッと消えた。
「……チッ」
小さく舌打ちをする音が聞こえた気がして横を見ると、シロ先輩は眉間にシワを寄せながら苛立たしげな表情をしていた。
(うわぁ……機嫌悪いなあ)
思わず苦笑する私を見て、シロ先輩はハッとしたように顔を逸らし「すまん」と小さく漏らした。バツが悪そうな顔をしながら頭を掻くので、私も顔を顰めて見せる。
「全然いいですよ。内心、私もチッて思いましたし! だって今日の予定、向こうの都合に合わせて無理やり空けたんですよ!」
わざと声のボリュームを上げて言うと、シロ先輩は困ったような顔になった。
「まぁ……仕方ないけどな。俺達の仕事は、クライアントの都合で振り回されることが多いから……」
「そうなんですけどねー。なんかなぁ……。よし! 先輩、気晴らしに甘い物でも食べて帰りましょ?」
私は努めて明るい声を出した。本当はすごく腹が立っていたけど、怒ったところでどうしようもないことは分かっている。それに、こんなにイライラした気持ちのままでは、どのみち仕事にならないと思っての提案だったのだが……。
「いや、急いで会社に戻ろう」
シロ先輩は私の提案を一蹴した。
「えっ!? なんでですか!?」
予想外の返答に驚く私に、シロ先輩は言った。
「もうすぐ会議の時間だろ。今日は参加出来ないって言ってきたけど、今ならまだ間に合う。ほら、行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってくださいよぉ~!!」
シロ先輩は私の返事を待たず、スタスタと歩き始めた。
仕事に関しては、案外真面目な人なんだよなと、仕方なくその後を追いかける。車に乗り込みエンジンをかけた時、ふと思い出したことがあった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる