レンタルオフィス、借りて下さい

田古みゆう

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プロローグ

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 社長の思いつきで始まった新事業の責任者に抜擢されて、早1ヶ月。俺は焦っている。



 営業部でなかなか成果の上げられなかった俺は、いつも部長から小言を言われていた。そんなある日、突然の内示。異動先は、新事業推進部。そんな部署がうちの会社にあったのかと思っていたら、新たに作られた部署だった。その新設部署の部長に、俺は抜擢された。

 この俺が、部長? 自分で言うのもなんだが、仕事の出来ないこの俺が?

 辞令が交付されても、信じられない気持ちを抱えたまま、営業部をあとにした。

 総務部から渡された卓上用ネームプレート。「新事業推進部 部長 田中正夫」という文字を見つめる。まさかという思いと、気を引き締めねばという思いで、頬の筋肉がピクピクと小刻みに痙攣をした。

「顔、ニヤけてますよ」

 そんな声に、咄嗟に表情を引き締めることが出来ず、指摘されたニヤけ顔のまま、声のした方へ視線を向けた。小さな丸眼鏡を掛けた小太りな男性が、胡散臭そうにこちらを見ている。

「あ、ああ……えっと、キミは?」
「システム管理部から新事業推進部に異動になった神宮寺です」
「ああ。そうか。俺は、田中です。よろしく。ところでキミの下の名前は?」
「……ひかる

 ネームプレートを彼に見せながら、ニヤけ顔を親しみやすい笑みに変える。しかし、神宮寺はそんな俺に一瞥をくれ、ボソリと名前を発しただけ。

 まぁ、人見知りする奴なのかも知れないなと軽く肩を竦めていると、総務部の人から、社長室へ行くようにと指示された。

「今日から君たちは新事業推進部だ。よろしく頼むぞ」

 書類に目を通しながらそれだけを告げた社長は、もう出ていけと言わんばかりに、シッシと手で軽く遇らう。

「あ、あの。社長。新事業推進部は、一体何をする部署なのですか? それから、デスクはどこに?」

 肝心な事を聞かなくてはと、俺は慌てて社長に声をかけた。

「ん? 伝えてなかったか? 巷では最近、在宅勤務が増えているらしいじゃないか。でも、なかなか、家では仕事が出来んだろ。だから、倉庫を一部改装して、新事業として、そこでレンタルオフィスの運営をする事にした。君たちは、その管理運営をしてくれ。デスクもそこに準備してある。そうだな。さしづめ二ヶ月で稼働率50%を目指してくれ」
「え? 倉庫? え? 稼働率50%?」



 そう伝えられたのが1ヶ月前。そして現在の、レンタルオフィスの稼働率は0%。社長の決めた期限まであと1ヶ月。俺は今焦っている。
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