冥界区役所事務官の理不尽研修は回避不可能 〜甘んじて受けたら五つの傷を負わされた〜

田古みゆう

文字の大きさ
82 / 92
5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと

p.82

しおりを挟む
 そこまでの説明を聞いて、僕の頭の中には薄らとした可能性が浮かび上がる。小鬼のこれまでの言動を思い返しながら、僕は頭の中に浮かんだ可能性を口にした。

「つまり、小野さんが身元引受人となって、五芒星を得た僕を特別補佐に取り立て……た?」
「そうです~」
「僕が、……冥界区役所職員?」
「そうです~」

 頭に浮かぶ可能性を口にする度、小鬼は嬉しそうにそれらを肯定した。肯定される度、頭の中がクリアになった僕は、しまいには絶叫していた。

「えーーーーーっ!」

 そんな僕の声に、事務官小野は鬱陶しそうに眉を顰め、小鬼はポカンと口を開けて見上げていた。

「どうされました~? 古森さん」
「ぼ、僕、冥界区役所の職員になっちゃったの?」

 自分の顔を指差しながら、僕もポカンと小鬼を見返す。

「そうですよ~。先ほどから何度も……」

 そこでハッとしたように、言葉を切った小鬼は悲しそうな顔になり、おずおずと言葉を続けた。

「もしかして……古森さんは、冥界区役所の職員はお嫌でしたか~?」

「い、嫌、というか、びっくりしすぎて……」
「お嫌ではないんですね~?」

 小鬼は少しだけ目を潤ませつつ迫ってきた。

「う、うん。まぁ……」

 突然の展開についていけず曖昧に頷いた僕の返事を、小鬼は良いように解釈したようだ。

「お嫌でないなら、良かったです~」

 ウルウルと瞳を濡らしていたものを瞬時に引っ込め、小鬼は笑顔全開で僕の両手を握る。

「……まぁ、最恐レベルの地獄に送られるよりは、いいのか……な?」

 小鬼に両手を握られながら、僕は独言る。小鬼は、本当に嬉しそうに僕の手をブンブンと上下させながら言葉を弾ませる。

「これからは、小野さまにお仕えする同僚ですね~。仲良くしてくださいね~。あ~、でも、本当は、古森さんの方が役職が上になるんですけどね~」

 小鬼の起こす振動に弄ばれながらも、小鬼の言葉を拾う。

「そ、そっか。小鬼と同僚か。なんか、それ良いかも」

 つい先ほどまで、自分にどんな処分が下されるのかと、ビクついていたことなどすっかり忘れて、僕は小鬼とわいわいと話をする。

 死んでから友達が出来るなんて、思ってもみなかった。これからは、小鬼となんでも話そう。

 事務官小野のことはまだ少し怖いけれど、彼ともたくさん話をしよう。小鬼が慕っている人だ。絶対に悪い人ではない。それに、なんてったって僕の身元引受人となってくれた人なのだから。

 小鬼との会話に花を咲かせつつ、そんな事を考える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...