80 / 92
5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと
p.80
しおりを挟む
「そうではない。小鬼は、ただそなたを信じておっただけだ。そうだな。小鬼?」
事務官に声を掛けられた小鬼は、口元の手はそのままに、コクコクと頷く。
そんな小鬼の姿と事務官の言葉に、胸に熱いものが込み上げる。
僕はこれまでこれほどの信頼を寄せられたことがあっただろうか。
「こ、小鬼……」
思わず言葉に詰まる。
しかし事務官は、そんな心の余韻には浸らせないとでも言いたげに、淡々と言葉を繋ぐ。
「そうは言っても、小鬼の直感に安易に乗るわけにもいかぬ」
「まぁ、確かにそうですね。五芒星でしたっけ? それの可能性があるってことですもんね?」
「うむ。そこで、最終研修は私も直接立ち会う事にしたのだ。己の目でそなたの人となりを確認した後に、判断を下すために」
「なるほど。だから、最後だけ監視……じゃない、お付き合い頂いたんですね」
言い直してみたけれど、しっかり聞かれてしまったようだ。
僕の言葉に事務官は軽くため息を吐く。それから、面倒くさそうな声を小鬼に向ける。
「もう良いぞ、小鬼。ここからはそなたに任せる」
事務官の言葉に、小鬼は口元から手をパッと離して大きな声で応えた。
「畏まりました~」
事務官に一礼してから僕の方へと向き直ると、はち切れんばかりの笑顔だった。
「古森さんが一生懸命研修に臨むお姿をご覧になって、小野さまは追加の焼印を認めてくださいました~」
「えっ? まさか、そんな理由?」
「もちろんです~! そうですよね~。小野さま」
小鬼の念押しと共に事務官小野へ視線を向けると、酷く鬱陶しそうな表情をしていた。
「そなたには、見込みがあると思っただけだ」
そう言って、明後日の方向へ顔を向けた事務官の横顔は、毎度の事務的なそれではなく、なんとなく柔らかく見えた。
「見込みって?」
事務官の言葉の意味が分からず問い直してみたけれど、事務官はそれ以上口を開く気はないようだった。
代わりに小鬼が嬉しそうに答える。
「それはもちろん、事務官付補佐としてですよ~」
僕は、足元へと視線を向ける。
「さっきもそんなこと言ってたけど、事務官付補佐って何?」
「事務官付補佐は、事務官さまのお仕事をお手伝いするお仕事です~」
「じゃあ、小鬼は事務官付補佐という立場なの?」
これまで小鬼は事務官小野の指示のもと動いていたようなので、そうだろうと予想をしつつ聞いてみる。
「そうです~。ですが、僕の場合は事務官補佐見習いと言うのが正しいです~」
「事務官補佐見習い?」
事務官に声を掛けられた小鬼は、口元の手はそのままに、コクコクと頷く。
そんな小鬼の姿と事務官の言葉に、胸に熱いものが込み上げる。
僕はこれまでこれほどの信頼を寄せられたことがあっただろうか。
「こ、小鬼……」
思わず言葉に詰まる。
しかし事務官は、そんな心の余韻には浸らせないとでも言いたげに、淡々と言葉を繋ぐ。
「そうは言っても、小鬼の直感に安易に乗るわけにもいかぬ」
「まぁ、確かにそうですね。五芒星でしたっけ? それの可能性があるってことですもんね?」
「うむ。そこで、最終研修は私も直接立ち会う事にしたのだ。己の目でそなたの人となりを確認した後に、判断を下すために」
「なるほど。だから、最後だけ監視……じゃない、お付き合い頂いたんですね」
言い直してみたけれど、しっかり聞かれてしまったようだ。
僕の言葉に事務官は軽くため息を吐く。それから、面倒くさそうな声を小鬼に向ける。
「もう良いぞ、小鬼。ここからはそなたに任せる」
事務官の言葉に、小鬼は口元から手をパッと離して大きな声で応えた。
「畏まりました~」
事務官に一礼してから僕の方へと向き直ると、はち切れんばかりの笑顔だった。
「古森さんが一生懸命研修に臨むお姿をご覧になって、小野さまは追加の焼印を認めてくださいました~」
「えっ? まさか、そんな理由?」
「もちろんです~! そうですよね~。小野さま」
小鬼の念押しと共に事務官小野へ視線を向けると、酷く鬱陶しそうな表情をしていた。
「そなたには、見込みがあると思っただけだ」
そう言って、明後日の方向へ顔を向けた事務官の横顔は、毎度の事務的なそれではなく、なんとなく柔らかく見えた。
「見込みって?」
事務官の言葉の意味が分からず問い直してみたけれど、事務官はそれ以上口を開く気はないようだった。
代わりに小鬼が嬉しそうに答える。
「それはもちろん、事務官付補佐としてですよ~」
僕は、足元へと視線を向ける。
「さっきもそんなこと言ってたけど、事務官付補佐って何?」
「事務官付補佐は、事務官さまのお仕事をお手伝いするお仕事です~」
「じゃあ、小鬼は事務官付補佐という立場なの?」
これまで小鬼は事務官小野の指示のもと動いていたようなので、そうだろうと予想をしつつ聞いてみる。
「そうです~。ですが、僕の場合は事務官補佐見習いと言うのが正しいです~」
「事務官補佐見習い?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる