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3.がとーしょこら色の思い出

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 保はガトーショコラが好きだと咲は言っていたけれど、僕の記憶が正しければ、保はそれ以上にシュークリームが好きなはずだ。僕らは昔、シュークリームの取り合いで大喧嘩をしたことがある。だから間違いないはずだ。

 しかし、僕の言葉に咲は少しだけ眉根を寄せている。

「さっきのガトーショコラも失敗してたし、シュークリームは、私には難易度高めだと思うんですけど……」

 なるほど。確かに咲の腕前では失敗の可能性は高そうだ。

「あ~、えーっと。手作りにこだわる必要はないんじゃないかな? 例えば、ちょっと有名なお店のものを差し入れするとか。別に、有名じゃなくてもいい。二人で美味しいと思えるものを一緒に食べればそれでいいんだよ」
「そう……でしょうか?」
「うん。あげるものよりも、共通の時間をどう過ごすかの方が二人には大事なことだと思うよ」

 咲は僕の言葉を聞き、頬をほんのりと赤く染める。

「でも、それだったら何でシュークリーム?」

 咲は恥じらいを潜ませつつ、僕のとぼけた答えをさらに衝いてくる。

「そこはほら、シュークリームって食べにくいだろ。だから、相手が顔に着けたクリームを取ってあげれば優しさをアピールできる! そして、自分にクリームが付いていれば可愛さアピールになる! シュークリームは、なかなかに使えるアイテムなんだよ」

 よく分からないシュークリームアピールを、僕は必死で捲し立てる。クスクスと笑いながら聞いていた咲は、僕のシュークリーム演説が終わると、一つ頷いた。

「わかりました! お兄さんの助言、肝に銘じますね。いろいろとお話を聞いてもらって……ありがとうございました」

 テッテレ~~

 咲は笑顔と彼女の優しさの証である水だけを残して、帰って行った。

 もう見えなくなってしまった咲の影を追い求めて、未練がましい僕は公園の出口から目を離せずにいる。そんな僕に小鬼が遠慮がちに声をかけてきた。

「あの~、古森さん~。お疲れ様でした~。本日分の研修も無事、クリアされましたね~」
「ああ。うん」

 僕は心ここにあらずを体現するかのように、呆けた答えを返す。それを見かねたのか、小鬼は僕の右太腿をゆさゆさと揺さぶりながら、お得意の大きな声を出す。

「古森さん~。戻ってきてくださ~い」
「んん? 何?」

 隣に腰かけて存在を全力アピールしている小鬼に、僕はようやく視線を送った。

「本日分の研修は終了しましたよ~。分かっていますか~?」
「えっ? ああ、そっか。そうだね」
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