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3.がとーしょこら色の思い出

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「そうそう。でもお礼はいいから、代わりにケーキを処分してくれって言う話だったと思うけど?」
「なんかもう、ややこしいですね。じゃあ、お水をあげたお礼に、お兄さんは私に助言をしてくれたってことにしましょう。ケーキは……」

 咲はしばし考えてから、ニカっと笑う。

「ケーキは、私たちが出会った記念って事でどうですか?」
「アハハ。なんだよ、それ。記念とかいるかなぁ?」
「えー。ダメですか?」

 咲は軽く膨れっ面をして見せてから、プッと吹き出す。

 そんなコロコロと変わる咲の表情を、僕はきちんと目に、そして心に焼き付ける。僕が出会った最初で最後の沢山の咲を、どれ一つ見落とさないようにしっかりと見つめる。しかし、何故だか視界が霞んでよく見えない。

 そんな僕を不思議に思ったのか、咲は軽く小首を傾げる。コレは僕もよく知っている咲の癖だ。

「お兄さん?」
「あ、ううん。なんでもない。ちょっと目にゴミが入ったみたいで」

 そう言いながら、僕は素早く上を向いてパチパチと瞬きを繰り返す。幸い涙は零れなかった。

「ええ? 大丈夫ですか? 擦ったらダメですよ?」
「うん。大丈夫、大丈夫」

 何度か瞬きを繰り返してから目を閉じた。目頭にじんわりと熱を感じる。なんとか熱を落ち着かせてから、顔を正面に戻して目を開けると、心配顔の咲と目が合った。

「もう大丈夫だよ」

 僕は精一杯の笑顔を咲に向ける。咲も安心したように花のような笑顔を返してくれた。

「あの、お兄さん。私、そろそろ……」

 帰り支度を済ませた咲は、名残惜しそうに言葉を濁す。

「そっか。そうだね」
「あの。また、お話しできますか?」
「う~ん。それはどうだろう」

 咲と会う事はもうないだろう。でも、そんな事を言って寂しい気分にさせることもない。

のことは、神のみぞ知る、ってね!」

 僕は無理に明るい声を出した。

 咲は一瞬ポカンという顔をしてから、今日一番の笑顔を見せてくれた。

「そうですね。先のことは神のみぞ知る、ですね。そう思いながら、また偶然お兄さんに会えることを楽しみにします」

 咲はそう言ってペコリとお辞儀をすると、スクッと腰かけていたベンチから立ち上がる。

 そんな咲を見上げながら、僕はふと思いついたことを口にする。

「ああ、そうだ。もし今度彼に差し入れをするなら、シュークリームにしなよ」
「シュークリームですか?」
「うん。シュークリーム」
「なぜですか?」
「う~ん。なんとなく」

 僕はとぼけた感じで答えを濁す。
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