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3.がとーしょこら色の思い出

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 このケーキを僕が食べることを、だと咲は言った。つまり咲は、このケーキの存在を無くしてしまいたいのだ。しかし、せっかくの努力を無駄にはしたくないから、捨てる事ができない。だから、僕なんかに食べてくれと言うのだろう。

 紙皿の上のケーキをボンヤリと見ながら咲の心を推測していると、隣に座る咲は上ずった声を出した。

「い、嫌だなぁ、お兄さん。べ、別に食べてもらいたい人なんて、いないよ。全然。もう、何、言っちゃってんの?」
「違っていたなら、ごめん。でも、女の子ががんばってスイーツを作る時は、食べてもらいたい人がいるからだと相場は決まっているんだよね」

 特に、きみの場合は。

 そう心の中で言葉を足すと、僕はゆっくりと咲の方へ顔を向けた。そのまま黙って視線を合わせる。

 しばらく黙って見つめ合っていると、咲は根負けしたようだった。足を前に投げ出し、天を仰ぎながら少し悲しそうな声を出す。

「あーあ。そういう事は、気づいても言っちゃダメなやつですよ?」
「うん。そうだね。ごめん」
「……でも、当たりです」

 咲は上を向いたまま、小さな声でつぶやいた。

 その咲の小さな呟きは、僕の心に大きくのし掛かる。僕の心を押し潰さんとする、小さくて大きいその呟きを、僕は咲に気づかれないようにため息と一緒に吐き出した。

 それから、何でもない風を装って話を続けた。

「好きな人だろ? 食べてもらいたい人って?」
「……そう……ですね」
「渡さなくていいの?」
「……渡せなかったん……です」

 咲は見上げていた顔を俯ける。そして、手にしている紙皿の両端をギュッと握りしめた。

「どうして?」

 僕は、極力感情を排した声を出す。

「……だって、迷惑だって……」

 咲は鼻声になるのを耐えるように、声を絞り出す。

「っ!! アイツ、そんな事言ったの?」

 僕は思わず声を荒げる。そんな僕にびっくりしたのか、咲が顔を上げた。

「えっ?」
「あ~、いや~、何でもない」

 僕は一つ咳払いをする。

 コレで誤魔化せるだろうか。冷や冷やしながら咲の様子を伺うが、咲は僕の声に驚いただけのようで、僕が声を荒げたことについては気に留めていないようだった。

 咲はどこを見るともなしに、遠くへと視線をやり、ポツリポツリと話し始めた。

「私、実は、あんまり料理得意じゃないんですよ……」
「うん」
「でも、今日の調理実習は、ちょっと気合を入れました」
「うん」

 咲が胸の内を全て吐き出せるように、僕は、小さく相槌だけを入れる。
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