17 / 92
2.りんご色の風船に手を伸ばしたら
p.17
しおりを挟む
僕は苦笑いを隠したくて頬を軽く掻く。そんな僕を気にする様子もなく小鬼は話を続けた。
「今は体感ルーム使用中なので、同じ空間内にいる間は全員強制的に同じ体感時間になっているのです~」
「ふ~ん」
なんだかよくわからないけれど、このバーチャル空間はものすごく万能ということだろう。
「ところでさ、僕たちは何処へ向かっているんだい?」
「さあ~?」
小鬼は僕を見上げて、僕は小鬼を見下ろして立ち止まる。
「えっ? あれ? ありがとうプログラムが行われる場所に向かっているのでは?」
「研修は既に始まっていますよ~。古森さんは好きなように行動してください~」
「どういうこと?」
「日常生活において、感謝の気持ちが生まれる場面を体感することが研修の目的ですから~。古森さんは、生きていた時のように自由に行動してもらえれば大丈夫です~」
相変わらず、すごくざっくりとした説明過ぎて、この空間でどんなことが行われるのかよくわからない。しかし、僕はこの状況に少しずつ適応し始めていた。
こんなに緩くざっくりとした感じの研修で、地獄の役人たちは本当に僕の処遇を決められるのだろうか。この研修をやる意味が本当にあるのだろうか。
そんなことを頭の片隅で考えながら、僕はこれからの自分の行動を考える。
自由にして良いと言われても、正直困る。小鬼に促されるがまま外へ出てきたとは言え、一応は僕自身、研修を受けに行くつもりで外へ出た。それが外出目的だったのだ。目的がなくなった。
自由に……自由に……自由に…………。だったら、自宅へ戻るのもありなのかな。そう思い、小鬼に尋ねてみる。
「あのさ、自由にしてもいいってことは、このまま何もせずに、さっきまで居た自分の部屋に戻ってもいいってこと?」
そんなことを口走った僕を、小鬼はジトっとした目で睨みながら腰に手を当てると怒涛の説教を繰り出した。
「あのですね~。古森さんは、この研修の目的がまだお分かりではないのでしょうか~?」
「ありがとうという、感謝の気持ちを体感するんでしょ?」
「そうです~。お分かりじゃないですか~」
「もちろん、わかっているさ」
「では、ご自身のお部屋へ戻られて研修目的が果たされるとお思いですか~? あの誰もいない空間で~? 誰にどんな感謝をして、どんな感謝の言葉をかけてもらうのですか~?」
「……す、すみません」
軽い気持ちで口にした案は、ものすごい勢いで打ち砕かれた。小鬼の剣幕に僕は俯くしかない。
「今は体感ルーム使用中なので、同じ空間内にいる間は全員強制的に同じ体感時間になっているのです~」
「ふ~ん」
なんだかよくわからないけれど、このバーチャル空間はものすごく万能ということだろう。
「ところでさ、僕たちは何処へ向かっているんだい?」
「さあ~?」
小鬼は僕を見上げて、僕は小鬼を見下ろして立ち止まる。
「えっ? あれ? ありがとうプログラムが行われる場所に向かっているのでは?」
「研修は既に始まっていますよ~。古森さんは好きなように行動してください~」
「どういうこと?」
「日常生活において、感謝の気持ちが生まれる場面を体感することが研修の目的ですから~。古森さんは、生きていた時のように自由に行動してもらえれば大丈夫です~」
相変わらず、すごくざっくりとした説明過ぎて、この空間でどんなことが行われるのかよくわからない。しかし、僕はこの状況に少しずつ適応し始めていた。
こんなに緩くざっくりとした感じの研修で、地獄の役人たちは本当に僕の処遇を決められるのだろうか。この研修をやる意味が本当にあるのだろうか。
そんなことを頭の片隅で考えながら、僕はこれからの自分の行動を考える。
自由にして良いと言われても、正直困る。小鬼に促されるがまま外へ出てきたとは言え、一応は僕自身、研修を受けに行くつもりで外へ出た。それが外出目的だったのだ。目的がなくなった。
自由に……自由に……自由に…………。だったら、自宅へ戻るのもありなのかな。そう思い、小鬼に尋ねてみる。
「あのさ、自由にしてもいいってことは、このまま何もせずに、さっきまで居た自分の部屋に戻ってもいいってこと?」
そんなことを口走った僕を、小鬼はジトっとした目で睨みながら腰に手を当てると怒涛の説教を繰り出した。
「あのですね~。古森さんは、この研修の目的がまだお分かりではないのでしょうか~?」
「ありがとうという、感謝の気持ちを体感するんでしょ?」
「そうです~。お分かりじゃないですか~」
「もちろん、わかっているさ」
「では、ご自身のお部屋へ戻られて研修目的が果たされるとお思いですか~? あの誰もいない空間で~? 誰にどんな感謝をして、どんな感謝の言葉をかけてもらうのですか~?」
「……す、すみません」
軽い気持ちで口にした案は、ものすごい勢いで打ち砕かれた。小鬼の剣幕に僕は俯くしかない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜
長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。
しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。
中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。
※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。
※小説家になろうにて重複投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
僕の目の前の魔法少女がつかまえられません!
兵藤晴佳
ライト文芸
「ああ、君、魔法使いだったんだっけ?」というのが結構当たり前になっている日本で、その割合が他所より多い所に引っ越してきた佐々四十三(さっさ しとみ)17歳。
ところ変われば品も水も変わるもので、魔法使いたちとの付き合い方もちょっと違う。
不思議な力を持っているけど、デリケートにできていて、しかも妙にプライドが高い人々は、独自の文化と学校生活を持っていた。
魔法高校と普通高校の間には、見えない溝がある。それを埋めようと努力する人々もいるというのに、表に出てこない人々の心ない行動は、危機のレベルをどんどん上げていく……。
(『小説家になろう』様『魔法少女が学園探偵の相棒になります!』、『カクヨム』様の同名小説との重複掲載です)
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
よくできた"妻"でして
真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。
単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。
久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!?
※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる