上 下
12 / 92
1.あんず色の世界で

p.12

しおりを挟む
 そのため前例がなく、救済措置について地獄の裁判で大議論へと発展したのだという。

 ゼロという数字は、即ち、人の心を持ち合わせておらず、人として極悪極まるということで救済措置なし。最恐レベルの試練を無期限で受けるべきという意見が出ているらしい。

 しかし、僕の場合は前例がないとはいえ、それ以外は普通の死者と同レベルの五戒違反しか犯していないのだから、一も二もなく最恐レベルへ送るということに異論を唱える役人もいるようだ。

「そこで、そなたには研修を受けてもらうことにした」

 小鬼の説明を引き取った事務官が、役人らしい事務的な口調で後を続ける。

「け、研修って……さっき言っていた、ありがとう……プログラム?」
「そう。『ありがとう体感プログラム』だ」

 どんな研修か知らないけれど、そのネーミングセンスは如何なものか?

 そんなどうでもいい事を頭の片隅で考えながら、僕は別の疑問を口にした。

「それを受けると、どうなりますか?」
「現時点では、そなたの人となりを見ることが目的だ。結果次第では、他の者同様に救済措置が与えられることになるやもしれん」
「結果がものすごく良ければ、地獄行きが取り消されたりなんてことは……?」
「五戒を犯している以上、今のところそのような措置は考えられていない」
「じゃあ、研修を受けなければ?」
「即、最恐レベル行きが決定する」

 どっちにしても、地獄行きは変わらないらしい。

「研修、受けるべきですよね?」
「まぁ、そうすべきだろうな」
「それ以外に、現状を良くする術はないんですよね」
「私の知る限りでは、ないな」
「やらなければ、最悪なことになるんですよね?」
「最悪かどうかは本人次第だが、少なくとも私が当事者であるならば、全力で回避するであろうな」

 つまり、選べる選択肢は一択のみ。ここは諦めるしかなさそうだ。僕は、大きく息を吸い、少し溜めてから一気に息を吐き出す。それで、気持ちは固まった。

「わかりました。それで、その研修というのは、何をすれば良いのですか?」

 事務官が話している間は、彼の足元で大人しく控えていた小鬼が、僕のいるベッドへ駆け寄ってきた。僕には腰を下ろすのにちょうど良い高さのベッドだが、背の低い彼には、結構な高さなのだろう。「ヨっ」と声を出しながら、ジャンプをしてベッドへ飛び乗ってきた。

「古森さん~、ご決断が早くて良かったです~。こんな機会滅多にありませんから~。本当に特別措置なんですよ~」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

紙飛行機に乗せて

Abel - エイベル
ライト文芸
僕は初恋の相手の顔も声も体温も知らない。僕がこの特殊な初恋の話をする羽目になったのは先輩の黒川理子に話を振られたからだ。

君の名をよばせて

雨ましろ
ライト文芸
初めて会ったとき、田丸は髪の毛ぼさぼさの真面目そうな印象だった。 バスで帰れば5分でつくのに、僕は田丸と一緒に帰り道歩いた。 ただ一緒にいる時間をつくりたくて、理由をさがしていた。 僕のドロドロした気持ちが晴れる日はくるのか。 人生でしあわせになれるようなあこがれを、未来をみたくなった。

働きたくないから心療内科へ行ったら、色々分からなくなった

阿波野治
ライト文芸
親に「働け」と口うるさく言われることに嫌気が差し、診療内科へ診察に赴いたニートの僕。医師から「不安を和らげるお薬」を処方されたり、祖父が入院する病院で幼女と会話をしたりするうちに、色々分からなくなっていく。

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

猫神様の言うことにゃ、神頼みなんて役立たず

フドワーリ 野土香
ライト文芸
第7回ほっこり・じんわり大賞【優秀賞】受賞! 野良猫の溜まり場になっているとある神社――通称野良神社には、猫神様がいる。 その猫神様は恋の願いを叶え、失恋の痛みを取り去ってくださるという。 だが実際には、猫神様は自由奔放で「願いは自分で叶えろ」というてきとーな神様だった……。 ちっさくてもふもふの白い猫神様と、願いを叶えたい男女4人の恋物語。 ※2024.6.29 連載開始 ※2024.7.24 完結

ブス婚サルト

e36
ライト文芸
性格の歪んだブス専のウェディングコンサルタント:田上誓は、その奇妙な性癖とは裏腹に、どんな夫婦も世界一幸せにしてくれる、凄腕の婚サルタントである。今日もまた、不遜な態度で彼はこう言い放つのだ。 「てめーらを世界一幸せにしてやるでごぜーます」 ※この世にあるあらゆるものと無関係であり、この世にあるあらゆる常識はこの物語で無視されるかもしれません。

パドックで会いましょう

櫻井音衣
ライト文芸
競馬場で出会った 僕と、ねえさんと、おじさん。 どこに住み、何の仕事をしているのか、 歳も、名前さえも知らない。 日曜日 僕はねえさんに会うために 競馬場に足を運ぶ。 今日もあなたが 笑ってそこにいてくれますように。

処理中です...