上 下
384 / 404

新人魔女が見た憧れの後ろ姿(8)

しおりを挟む
 リッカが慌てて礼を述べると、白猫は興味無さそうに返事をする。

「別にええよ。それより、アイツをなんとかしてやった方がええんちゃうか?」
「え?」

 グリムの視線の先には、白いふわふわの毛並みを血で赤く染めたフェンの姿がある。リッカは慌ててフェンを抱き上げた。

「フェン! しっかりして!」

 リッカが必死に呼びかけると、フェンが小さく唸った。

「すみません。リッカ様。僕、お役に立てなくて……」

 どうやら意識ははっきりとしているようだ。リッカはホッと安堵する。

「そんなことないから。フェンは頑張ってくれたよ。今、治癒魔法をかけるから、もう少し待ってね」

 リッカは泣きそうになりながら必死に使い魔に呼びかける。そんな主の腕の中で、フェンがキョトンとした顔をする。

「リッカ様。僕は大丈夫ですから」
「大丈夫なわけないじゃない。こんなに血塗れになって」

 リッカが涙ながらに訴えていると、背後でククッと笑い声を堪える声が聞こえた。リッカが声のした方を睨みつけると、リゼが顔を背けながら必死に笑いを堪えていた。リッカは顔を真っ赤にして怒る。

「ど、どうして笑うんですか! フェンが一大事なんですよ!」
「いや、すまない。君があまりにも必死なものでつい」

 リッカはプイッと顔を背けた。

「当たり前じゃないですか。フェンはわたしの大切な使い魔なんですよ」

 そんなリッカに、リゼが笑いを堪えながら声をかける。

「まあ、少し落ち着け。その使い魔は大丈夫だから」
「だから、大丈夫なんかじゃないんですってば。こんなに血塗れに……」

 リッカが尚も言い募ろうとしたその時、フェンがリッカの腕の中から抜け出し、スッと立った。

「僕、本当に何ともないんです。奴らの血を浴びただけですから」

 その言葉を聞いて、ようやくリッカは現状を理解した。そして、自分自身も血塗れであることに気がついた。

「そ、そうなの? ああ、わたしも血塗れ……」

 呆然と呟くリッカに、リゼが呆れたように肩を竦めた。

「ようやく正気に戻ったな」

 そう言いながら、リゼはリッカとフェンに浄化魔法をかける。リッカは、温かで清らかな魔力が体を包むのを感じた。体の汚れがきれいに洗い流されていく。リッカはその温かな魔法に懐かしさを感じた。

「魔女様と同じ魔法……」

 ポツリと呟いたリッカに、リゼが怪訝そうな顔で反応する。

「これは、私意外使える者はいないはずだが?」

 その言葉で、リッカは唐突に憧れの魔女様の正体に気づいたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

処理中です...