新人魔女は、のんびり森で暮らしたい！

新人魔女と師匠の間に起きたわずかな軋轢(２)

　リゼの返答にリッカは「あっ」と小さな声をあげた。そして、少し考えてからリゼへと向き直る。

「そう言えば忘れていました。昨日も、それから先週も。でも、今は仕事をお休みしている場合ではないと思うのです」

　リッカがそう言うと、リゼは驚いたように目を見開いた。しかしすぐに不機嫌そうに眉を顰めた。そんなリゼの表情の変化を気にすることなくリッカは言葉を続ける。

「こちらでの作業が軌道に乗ったらお休みさせてもらいますが、今はとにかく氷精花の栽培を成功させないと」

　リッカの言葉にリゼは眉間の皺を深くする。そして「はぁ」と短く溜め息を吐いた。

「君は相変わらず馬鹿だな」
「ど、どこがですか？」

　リゼの暴言にリッカはムッとする。そんなリッカに対してリゼは鼻で笑った。

「仕事を楽にする為に、アレを使っているのではないのか？　それなのに休まないとは……。まぁいい。君が仕事を休むのも働くのも君の自由だ。私が口を出すことではないな。なにせ、ここの工房主は君なのだから。自身の休暇くらい好きにすればいい」

　そう言い切ったリゼは、もう話は終わりだと言わんばかりに本に視線を戻した。そんなリゼにリッカは少し躊躇いがちに話しかける。

「あの……リゼさん。お気遣いありがとうございます」

　リッカの呼びかけにリゼが視線だけをこちらへ向ける。不貞腐れたような眼差しにリッカは少し戸惑いながらも、リゼを真っすぐに見つめる。そして思い切って口を開いた。

「あの、せっかく作業場へいらしたのなら、……そのぉ……少しお力を貸していただくことはできませんか？」

　リッカの言葉にリゼの眉がピクリと動く。しかし、すぐに本へと視線を戻すと素っ気ない答えが返ってきた。

「……アレたちは私に近づいて欲しくないようだが」

　リゼの返答にリッカは苦笑する。それから一塊になっているセバンたちにそっと声をかける。

「リゼさんはきっとあなたたちと仲良くなりたいだけなのよ。怖がらないであげてくれるかな？」

　リッカの呼びかけにセバンたちは顔を見合わせる。そして一瞬間が空いてから一体のセバンがおずおずと近づいてきた。そんなセバンの様子から了解の意を汲み取ったリッカは「ありがとう」と声をかける。すると残りのセバンたちもゆっくりと近づいてきた。

「セバンたちはもう大丈夫です。これからも好きなだけ観察してください。ただし、いじめるのはなしですよ」

　リッカの注意にリゼは本を読みながら、フンと鼻を鳴らす。