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新人魔女の小さな助手(1)
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今日も、新人魔女のリッカはまだ外が暗いうちにマグノリア魔術工房へとやって来た。工房の掃除を済ませると、昨日から新たに掃除個所として加わった自身の作業場へ足を運ぶ。
昨日建ったばかりの真新しい作業場は、まだ埃などもなくとても綺麗だ。作業台の上も綺麗に整頓されている。それでもリッカは、念には念をと箒を手に取り床の掃除を始めた。一通り掃き終えたリッカはふと天井を仰ぎ見る。朝日が昇ったばかりでまだ辺りは薄暗いが、空はすっかり明るくなっていた。
「今日は午後から予定があるし、掃除は早く終わらせて研究を始めなくちゃ」
リッカは箒を元の位置に戻すと壁際に立つ大きな棚へ近づいた。棚から小さな壺をそっと取り出す。これは昨日リゼから渡されたものだ。中には虹の雫から抽出した液が入っている。リッカが不在の間にリゼが採取してくれた物らしい。リゼは栽培過程で虹の雫を与えた場合、氷精花にどのような影響があるのかを研究したいのだそうだ。
栽培用の畑には二株の氷精花が植わっている。そのうちの一株がリゼの研究用、もう一株はリッカが栽培供給を安定させるための研究用だ。二株とも昨日のうちに土へと埋めておいたのだが、既に溶けてしまっていて跡形もない。あるのは、目印にと立てた棒だけだ。
リッカはその目印の前に座り込むとジッと土を見つめた。自分の仮説は本当に正しいのだろうか。もう一度氷精花はこの場所に咲くのだろうか。もしも、失敗だった場合は貴重な素材を二つも無駄にしてしまったことになる。一抹の不安が胸を過る。しかし、リッカは大きく深呼吸をすることでそんな気持ちに蓋をする。
「よしっ!」
リッカは気合いを入れると、手の中の壺の蓋を開けた。ふわりと甘い香りが漂う。途端に舐めてみたい衝動がリッカの胸の内を占める。その衝動をぐっと堪えて、リッカは虹の雫が溶け出た水を氷精花の株があるであろう場所へ振りかけた。それからすぐに壺に蓋をすると大きく息を吐きだす。
虹の雫を扱う時は大きな緊張が伴う。氷精花の温度管理と併せて、これの制御方法も検討しなければとリッカは頭の片隅にメモしておく。
「次はわたしの方ね」
リッカは小さな壺を棚へ戻すと、もう一方の目印の前に膝まづく。リゼの研究対象である氷精花とは少し離れた位置に自身の研究対象を埋めた。研究対象は同じだが、こちらは普通の水を与えて栽培するつもりなので、虹の雫の影響を受けないようにという意図である。
昨日建ったばかりの真新しい作業場は、まだ埃などもなくとても綺麗だ。作業台の上も綺麗に整頓されている。それでもリッカは、念には念をと箒を手に取り床の掃除を始めた。一通り掃き終えたリッカはふと天井を仰ぎ見る。朝日が昇ったばかりでまだ辺りは薄暗いが、空はすっかり明るくなっていた。
「今日は午後から予定があるし、掃除は早く終わらせて研究を始めなくちゃ」
リッカは箒を元の位置に戻すと壁際に立つ大きな棚へ近づいた。棚から小さな壺をそっと取り出す。これは昨日リゼから渡されたものだ。中には虹の雫から抽出した液が入っている。リッカが不在の間にリゼが採取してくれた物らしい。リゼは栽培過程で虹の雫を与えた場合、氷精花にどのような影響があるのかを研究したいのだそうだ。
栽培用の畑には二株の氷精花が植わっている。そのうちの一株がリゼの研究用、もう一株はリッカが栽培供給を安定させるための研究用だ。二株とも昨日のうちに土へと埋めておいたのだが、既に溶けてしまっていて跡形もない。あるのは、目印にと立てた棒だけだ。
リッカはその目印の前に座り込むとジッと土を見つめた。自分の仮説は本当に正しいのだろうか。もう一度氷精花はこの場所に咲くのだろうか。もしも、失敗だった場合は貴重な素材を二つも無駄にしてしまったことになる。一抹の不安が胸を過る。しかし、リッカは大きく深呼吸をすることでそんな気持ちに蓋をする。
「よしっ!」
リッカは気合いを入れると、手の中の壺の蓋を開けた。ふわりと甘い香りが漂う。途端に舐めてみたい衝動がリッカの胸の内を占める。その衝動をぐっと堪えて、リッカは虹の雫が溶け出た水を氷精花の株があるであろう場所へ振りかけた。それからすぐに壺に蓋をすると大きく息を吐きだす。
虹の雫を扱う時は大きな緊張が伴う。氷精花の温度管理と併せて、これの制御方法も検討しなければとリッカは頭の片隅にメモしておく。
「次はわたしの方ね」
リッカは小さな壺を棚へ戻すと、もう一方の目印の前に膝まづく。リゼの研究対象である氷精花とは少し離れた位置に自身の研究対象を埋めた。研究対象は同じだが、こちらは普通の水を与えて栽培するつもりなので、虹の雫の影響を受けないようにという意図である。
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